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麻黄湯にRSウイルス感染を防ぐ作用 福岡大の研究
RSウイルス感染症は、インフルエンザとよく似た症状を示す、乳幼児を中心に流行するウイルス感染症だ。乳幼児や高齢者では重症化し肺炎を起こすと、入院が必要な状態になることもあるが、治療法やワクチンは確立されていない。福岡大学の研究グループは、麻黄湯という漢方薬が、このウイルス感染症に効果があることを明らかにした。
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今回の研究は、福岡大学病院の鍋島茂樹教授らの研究グループにより行なわれ、研究結果は、1月6日のCommunications Biologyに掲載された。
RSウイルス感染症は、2歳までにほぼ100%がかかると言われている感染症だ。健康な成人に感染した時は通常の風邪のような症状である。インフルエンザや新型コロナと同じように、飛沫感染することが分かっている。
漢方薬は歴史が古い薬だ。元々は中国で始まった医学が日本へ渡り、その後日本独自の漢方薬として発展してきた。現在は病院で処方する薬としても使われている。
私たちが通常使用している西洋薬は、症状や病気によって特定の薬を決定していくのに対して、漢方薬は個々が持っている体質、不調の原因などから薬を決めていく。複数の植物由来の薬(生薬)が混ざっているのも漢方薬の特徴だ。その効果は長年の経験で分かってはいるが、どんな仕組みで効いているのかがまだ分からないものが多い。
研究グループはこれまで、長年に渡りウイルス感染症への漢方薬の効果を調べていた。その中でも麻黄湯がインフルエンザに対して、治療薬のタミフルと同程度に効果があるという報告をしている。麻黄湯は、体力がある人の発熱、寒気、咳、関節痛などの症状に効果がある漢方薬だ。
今回研究グループは、まず培養細胞に麻黄湯を加えて、RSウイルスへの影響を調べた。すると、ウイルスが細胞に接着するタイミングで麻黄湯が存在していると、感染を大きく抑えることが判明。一方でウイルスが細胞と融合する時や増殖する時に麻黄湯が存在しても、効果は見られなかった。つまり、麻黄湯はウイルスが細胞に接着する段階に作用していると考えられた。
また研究グループは、麻黄湯の中の「麻黄」と「桂皮」という成分がRSウイルスの表面にあるGプロテインに結合し、細胞に入れ込めないように働いていることを解明。Gプロテインは、RSウイルスが細胞に感染する時の足がかりになる重要なタンパク質である。
さらに体内での麻黄湯の効果を見るために、マウスのモデルを用いて検討。RSウイルスに感染させたマウスに麻黄湯を5日間与えると、肺炎を防ぐことができ、ウイルスも検出されなくなっていた。
今後小児科と協力して、麻黄湯がRSウイルスに効果があるかどうかを検討していくと言う。この漢方薬が臨床でRSウイルス感染症の治療に役立っていく可能性に期待したい。(記事:室園美映子・記事一覧を見る)
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