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日大の背任・脱税問題、私学助成金カットでの対応は学生の苦しみを倍加に
日本大学を巡る背任事件と脱税問題に関連して、末松信介文部科学相は11月30日の記者会見で、日大に対する21年度分の私学助成金交付に厳しい対応が避けられないとの見解を示した。20年度には日大に約90億円の私学助成金が交付されていた。既に日本私立学校振興・共済事業団が10月の審議会で、21年度分の交付を保留し、22年1月に再度審議会を開催して最終決定を下すと報じられているため、まるで歩調をそろえるかのような反応と言える。
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日大の一部の理事による、私利私欲を剥き出しにしたかのような行為を聞かされれば、ペナルティを加えたくなる気持ちは良く分かる。問題は、ペナルティの内容が私学助成金のカットで良いのかということだ。21年度の日大収入予算額は2657億円のため、仮に昨年の実績額90億円を満額カットしたとすると、全体で3.4%の収入が減少することになる。
株式会社などで同様の不祥事件が発生した場合に、ペナルティとして収入が減少するようなことがあって、廻り廻って従業員の給与にマイナスの影響があったとしても、利害が共通する者同士の間であれば、止むを得ない感が否めない。
同様の発想で、私立学校を処分してもいいのだろうか?何故なら、学校とは学生が授業料を負担して、就学全般に渡るサービスの提供を受ける場だからだ。
私学助成金は、私立学校経営の健全性を高めることや、学生・家族の修学上の経済負担を軽減することを通して、学校教育を発展させると共に、人材の育成や学術研究につなげることを目的として、1970年から実質的な補助がスタートした。
この主旨に則り、助成金は学校固有の様々な事情を総合的に勘案して、最終的に金額が決められる。中でも、何にも増して優先されるべきなのは、学生の適正な勉学環境を確保することであると考えると、一部の理事の非行に対するペナルティが、学生に降りかかるような発想は到底納得できるものではない。
私学助成金が減額されたりカットされると、学校側が何らかの出費を削減して帳尻を合わせようとするのは、当然のことだ。教員を削減して人件費を浮かせたり、建物の修繕を先延ばしにすることで経費削減に努めると、そのあおりを被るのが学生全般ということになる。
学生は学校の不祥事が世間に広まることで、既に1度目の被害を受けている。私学補助金が減額されて教育環境の質が低下すると、2度目の被害を受ける。日本ではこうした状態を「ふんだりけったり」と表現してきた。
それでなくとも、現在修学中の学生は対面授業の多くを失い、学生同士の交流機会にも恵まれない厳しい環境下にあったことを考えると、私学補助金の削減は学生をより過酷な環境に押しやることになりかねない。
学習環境の充実を目的にした私学助成金を、理事らの非行が発覚した際のペナルティにすること自体が不適切ではないだろうか。理事が学校に不利益を与えた場合には、当該理事に損害賠償を請求したり、犯罪者として適切な刑罰に処して問題を終息させるべきだ。浮き彫りになった問題点が再発することのないように、具体的な対策を検討するように指揮を執るのが文部科学省であるのは言うまでもない。
組織に突然がん細胞のようなモンスターが出現することは、遠くは三越や記憶に新しい日産自動車の例を見るまでもなく、どんな組織にも起こり得る。
絶対的な権力者を諫めて退陣させることが、平穏にできると想定することは究極の建前論である。
日大の田中前理事長に対する問題意識は、地検の中で引き継がれていたというが、今まで突破口が見当たらなかった。昨年別件の捜査中に、日大絡みの資金の動きに疑問を抱いた捜査員がいたから今日を迎えているという、僥倖のようなものだ。この幸運を形あるものに結実させて、一時的な花火に終わらせてはならない。何よりも、学生の就学環境を悪化させない配慮が望まれる。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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