多読多聴で中国語を伸ばすための、レベル別学習方法と教材の選び方 上級者編

2021年8月31日 11:31

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 前回まで2回にわたり、多読多聴による中国語学習の進め方について、初級者と中級者に最適な教材や学習方法を紹介してきた。今回は上級者について説明したい。

【こちらも】多読多聴で中国語を習得、レベル別学習方法と教材の選び方 中級者編

●1. 上級者の多読は「小説」、多聴は「ドラマ」を中心に

 上級者にとって最適な多読多聴の素材は、ドラマと小説である。1日1時間の学習時間を確保できた場合、ドラマ・小説を素材に多読多聴を始める最適なタイミングは学習をスタートしてから1年後が目安になる。その理由について順を追って説明したい。

●2. 多読多聴にドラマ・小説が最適な理由とは

 外国語教育におけるインプット仮説を提唱する、スティーヴン・クラッシェン氏は、多読の素材に最適なのは小説であると述べている。その理由は、小説を読めば、日常的に最も多く使われる基礎単語・頻出用語が学べるからだ。また、小説を読めば会話で良く使われる言い回しを自然に習得できる。

 ドラマは小説と同じように、日常会話や基礎単語、頻出用語が広く学べるため、多聴の素材として最適だ。中国のドラマは、時代劇・抗日ドラマ・現代ドラマに分けられ、時代劇に秀逸な作品が多く、日本でも良く放送されている。だが多聴の素材としては、現代ドラマの方が向いている。ビジネス中国語の学習者は、ビジネスや職場がテーマのドラマを見るのが良いだろう。自分が学ぶべき単語が多く使われているはずだ。

●3. 小説・ドラマを中心に多読多聴を始める最適なタイミング

 スティーヴン・クラッシェン氏は、多読多聴で非常に重要なのが、「理解可能なインプット(Comprehensible Input)」だと述べている。そして、現在の言語習得レベルを「i」、それより僅かに高いレベルを「i+1」とし、「i+1」の理解可能なインプットが最も効率が良いと説明している。

 ここでもう1つ、外国語学習に関わるクラッシェン氏の仮説「情意フィルター仮説」について紹介したい。

 情意フィルター仮説(The Affective Filter hypothesis)とは、「不安」や「自信喪失」などのネガティブな感情が外国語習得能力を低下させてしまうというものだ。氏は、外国語習得に影響を与える要素として、「Motivation(動機付け)」「Self-confidence(自信)」「Anxiety(不安)」の3つを挙げており、動機が強ければ強いほど、そして自信があればあるほど外国語習得が成功に近づくとしている。

 一方で、不安な気持ちが強いとスムーズな言語習得が妨げられると警告している。自信とモチベーションを高め、不安を取り除く素材選びや、学習を始めるベストなタイミングを見定めることが重要になる。

 では、外国語学習を始めてからどのくらいの期間で、小説がスラスラと読めるようになるのか。スペイン語教育に多読学習を取り入れた江澤照美氏の研究によると、学習者のレベルがCEFRでB1レベルに達していることが望ましいと言う。CEFRのB1レベルとは、一般的な会話が聞き取れ、一般的な文章が書けるレベルだ。

 必要な学習時間は350~400時間、毎日2時間の学習時間を確保できるのなら半年、1時間でも1年あれば達成するレベルだ。詳細は、下記の記事を参考にしてほしい。

【参考】外国語学習での多読、どの程度の語学レベルで始めるのが最適?

●4. 多聴の素材はCCTV(中国中央電視台)のテレビ番組

 CCTVのアプリをダウンロードすることによって、1997年から2020年までにCCTV(中国中央電視台)で放送されたドラマの大多数が視聴できる。2021年放送のドラマは表示されるが、視聴はできないようだ。

 またCCTV(央视网)のサイトでは、CCTVで放送される様々なジャンルのテレビ番組が視聴できる。

 ページを一番下までスクロールすると、チャンネル毎に番組が選べる。下記は多聴におすすめの番組だ。

・CCTV1総合: 焦点访谈、今日说法
・CCTV2財経: 经济半小时、经济信息联播
・CCTV13新聞: 世界周刊、新闻周刊、面对面

●5. 上級者の多読は日本人作家の中国語訳、中国映画・ドラマの原作

 上級レベルに達してから、母語話者と齟齬なく会話できる「ペラペラレベル」までが最も長く険しい道のりだ。長く険しい道のりを歩み続けるためにも、興味関心を持って楽しく読み進められる素材を探したい。

 楽しく読める素材の1つが、日本の小説の中国語訳だ。多くの日本人作家の著書が中国語訳されているので、自分が好きな作家の作品について中国語版が出版されているか調べてみよう。日本人作家でも、村上春樹と東野圭吾の作品は中国でも人気で、中国語訳された著書も多く、求めやすい。両氏ともに、リズム感のある平易な文体が特徴的とされ、多読の素材に最適だ。書籍の購入方法などは、下記の記事で詳しく紹介している。

【参考】中国語の語彙力を飛躍的に伸ばす方法 村上春樹や東野圭吾の中国語版を多読

 中国映画やドラマの原作も多聴の素材としておすすめだ。感動した映画や、夢中になって見たドラマであれば、楽しく読めるであろう。下記は映画化・ドラマ化された作品の原作で、中国の関連サイトで、読みたい現代文学作品として、常に上位にランキングされているものだ。

・「围城」钱钟书、出版1947年、ドラマ化1990年
・「平凡的世界」路遥、出版1986年、ドラマ化2015年
・「紅高梁」莫言、出版1986年、映画化1987年
・「白鹿原」陈忠实、出版1993年、ドラマ化2017年
・「活着」余华、出版1993年、映画化1994年

 外国語学習は長く険しい道のりだ。ペラペラと言えるレベルに達する人は、千人に1人、いや、万人に1人かもしれない。成功の秘訣はたった1つ。継続できる方法を見つけること。そのためにも、最適なコンテンツを見つけることが重要だ。(記事:薄井由・記事一覧を見る

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