黒岩知事と小池知事とのやり取りから、新聞の凋落を連想 (下)

2021年3月12日 07:53

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 大野氏と森田氏が、緊急事態宣言の延長要請に賛成していると小池氏から聞かされた黒岩氏が、テレビ番組で怒りを表明。それに対して翌8日に記者団から質問を受けた小池氏は、自分が森田氏に直接連絡はしていないことや、「準備段階で色々なことがあるが信義則は守っていきたい。遣り取りは事務方も含めて行っている」と回答した。

【前回は】黒岩知事と小池知事とのやり取りから、新聞の凋落を連想 (上)

 当事者2名の話を別々に聞いているのと、小池氏が微妙にはぐらかして答えているので真相は見え難い。先に仕掛けた黒岩氏が遣り取りを具体的に語っているのに対して、”奸計”と指摘された筈の小池氏が妙に冷静に対応しているという印象を強く受ける。

 小池氏が1都3県の知事を自分の意見でまとめるため、手強い黒岩氏の懐柔を期して「大野元裕埼玉県知事と森田健作千葉県知事は賛成している」と伝えた。小池氏が4名の総意をまとめたとして、コロナ担当の西村康稔経済再生担当大臣に緊急事態宣言の延長を申し入れれば、自分自身の存在感を見せつけることが出来るという計算があってもおかしくない。

 誤算だったのは、大野氏と森田氏の賛意を小池氏から伝えられた黒岩氏が、自分で2名の真意を確認したことだ。知事レベルの意思決定が随分軽いものだったというおまけまでついて、小池氏の偽りはアッサリと露見したように見える。

 廃業の危機に直面している飲食店の経営者の中には、緊急事態宣言の延長が持つ意味の重さに、最後の望みを断ち切られたように感じる人だっていた筈だから、こんな駆け引きを見せつけられて抱いた怒りと失望は相当のものだったろう。

 小池氏は黒岩氏の発言に対して、直接の反論も否定もしていない。「事務方の伝え方」に問題があるように匂わせて、「準備段階では色々あるさ」と曖昧なままの幕引きを期待しているのか。報道機関には、大野氏と森田氏に対して2日の時点で緊急事態宣言の延長要請を決めていたかどうか、を確認して報道する発想はないのだろうか。

 新聞に限らず、マスコミが取材対象を選別しているように感じる人は少なくないようだ。自社の主張や方針にネガティブなニュースには先を争って喰いついているように感じるマスコミが、反対勢力には突っ込みが足りないか、追求する姿勢すら見せない。攻撃する時には追及に使われる「忖度」が、自らの都合で使われているのはご都合主義というのではないか。

 数少ないニュースの中で、ある新聞が報じた”西村担当相が「誰の手柄ではなく」小池都知事の動きに苦言”という8日付の記事が、10日14時現在でいまだにその新聞社のサイトで第6位にランクインし、関心の高さを示していた。

 読者の求めるニュースと新聞社の提供するニュースに、ミスマッチが起きていることに鈍感な新聞から、読者が離れる傾向は今後も続くと思わせる話題だ。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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