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車のアンテナ、その変遷
●AMラジオの時代
1960年頃の自動車には「FMラジオ」は存在せず、ラジオといえば「AMラジオ」。それも標準装備では無くて、下位グレード車はオプションで設定されていた。
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TVは、放送開始5年後である1958年の受信契約が100万台、1959年4月の現上皇ご夫妻のご成婚直前に200万台でしかなかった時代。NHKラジオは聴取料が課金され、自宅の他に、昔の筆者の父親の車には、確かNHKのラジオ受信票が後部ドアのガラスに貼ってあった記憶がある。
当時のラジオは電源を入れると、即時に鳴りだす「トランジスタ」では無くて、「真空管式」だから、電源を入れてしばらくすると鳴りだした。
アンテナは数段を引っ張り出す棒状の「ロッドアンテナ」で、車をスタートする際に、手で引っ張り出した。
アンテナにいたずらされない様に、最後まで押し込むと、アンテナ本体は全てフロントフェンダ内に収納される。引き出す際は、アンテナ頂上に丸い溝が彫り込んであり、そこに丸く溝が切ってある鍵を差し込んで、少し斜めにして引っ掛けて引き出す様になっていた。
●アンテナの設置場所
その後、ラジオも電源を入れると、即時に鳴りだす様になり、アンテナも手で引っ張り出すタイプから、ラジオスイッチを入れると、1段分のアンテナが飛び出すタイプが主流になっていった。
また上級車種には、モーターでアンテナを自由に上下させるタイプが登場した。
昔の都会地には「路面電車」が走っていた。
一般的な路面電車は道路の中央部を走っていて、停車場は当然道路中央部分に設けられる。車は路肩と路面電車に挟まれて走ることになる。
そこで設計陣内では、車にアンテナを装着するのは、フロント右側にすべきかフロント左側にすべきかの論争もあった。
右側派は運転席に乗り込む際に、アンテナを出す為にわざわざ反対側に回らなくても、手近な位置の方が良いと主張する。左側派は、どうせスタート前には、車の周りを一周して、タイヤ点検とかの始業点検をするのだから、左に設置する方が、路面電車の架線から離れるので、ノイズ等の面で有利になると主張した。
●アンテナのタイプ
6月19日付「泣く子と地頭と監督官庁」で触れた、安全合わせグラスのフロントグラスにアンテナを封入したタイプは、汚れや折損や風切り音を防止する目的で考案された。
このタイプは、アンテナを出し入れする必要もなく、アンテナ有効長も無理なく確保出来た。
その後、後部ガラスの曇り除け熱線プリントと一緒に、プリントされる例が増えた。
また、従来の伸縮式ロッドアンテナに代わって、1本のアンテナを右フロントピラー部分に収納して、運転席から手を伸ばせばアンテナの先端に届き、適宜引っ張り出すタイプのものが広まった(写真1参考)。
最近ではルーフ後部に短い1本物の棒状アンテナや、シャークフィンタイプのアンテナが普及している。
ルーフ後部に20~30cm程度の棒状アンテナを設置した車は、国産車の場合はルーフに沿う様に前方に倒せるが、輸入車ではそんな工夫がされていない車種もあり、その場合、高さ制限のある立体駐車場では、入庫前にねじ式のアンテナを外す必要がある(写真2、3参考)。
●その他のアンテナ
携帯電話が普及する以前、「車載電話」には、後部トランクに1本物の電話用の棒状アンテナが必要だった。高価な車載電話は設置出来ないが、見栄でアンテナだけ取り付けている車もいた。
TVも昔はV型にロッド2本が突き出したタイプのアンテナを左右に取り付けていた。今では、TV付きポータブルナビでもガラス内側に貼り付ける。
アンテナで見栄を張る時代は現在では想像もつかないだろう。「自家用車」「マイカー」がステイタスシンボルの時代は、遠い昔となった。(記事:沢ハジメ・記事一覧を見る)
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