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機密情報共有体制がもたらす相乗効果と韓国【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】
*09:36JST 機密情報共有体制がもたらす相乗効果と韓国【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】
韓国が日本との秘密軍事情報の保護に関する協定(General Security of Military Information Agreement: GSOMIA)を破棄すると通告してきたのは、2019年8月22日のことであった。当時、北朝鮮との取り引きが疑われた韓国を、日本がホワイト国から除外し半導体材料の輸出管理を厳格化したことが、破棄通告のきっかけだとされた。GSOMIA継続に関するアメリカからの強い圧力もあり、破棄期限の直前であった11月22日に、韓国は破棄通告の効力停止を発表し、GSOMIAは継続されることになった。しかし、今年の通告期限にも破棄の意思表示こそなかったものの、韓国政府は昨年の破棄通告が有効であるとの認識を示し、GSOMIAをいつでも破棄できると考えている。
日韓のGSOMIAが共有する情報は広範多岐にわたるが、北朝鮮が発射するミサイルに関する情報はその重要なものの1つである。韓国にとっては、北朝鮮国内から発射されたミサイルの発射位置や初期弾道に関する情報を補足するのに有利であり、日本海で監視を強化する日本は、下降ポイントや弾着地域の予想につながる情報獲得に有利ということもあり、GSOMIAには単なる情報の共有だけではない相乗効果も見込むことができる。アメリカを含めた情報共有にさらなるメリットがあることは、軍関係者ならずとも容易に想像できるだろう。
当面の協定破棄を回避して情報共有体制を維持したものの、韓国にはさらに取り組まなければならない問題が待ち受けているようだ。ジャガンナート・パンダ博士は、8月24日付で38NORTHに発表したコメンタリーで、機密情報共有組織「ファイブ・アイズ」が北朝鮮や中国の活動を監視するために情報共有の枠組みを拡大する際、その候補国の1つである韓国の国内政治の状況が情報共有を妨げる可能性を指摘した。韓国では、情報コミュニティ、政策立案者、国民の間に信頼関係が欠落していることから情報分野において機能不全が生じ、それによってファイブ・アイズがソウルを情報共有のパートナーにすることにためらいを持つという。
2017年8月、韓国の国家情報院(National Intelligence Service: NIS)が2009年5月から2012年12月までの間、民間人で構成された外郭のサイバーチームを使って世論操作を行ったことが明らかとなった。チームの数は最大30にまで拡大して最大3,500のIDを使用し、投入された資金は30億ウォン(約2億9000万円)に達したとのことである。2012年の大統領選挙に際しては、元世勲(ウォン・セフン)前院長の指示のもと、NISの職員による大規模な「コメント部隊」が組織されたことも明らかとなった。博士の分析では、こうした情報機関の国内政治への介入が国民に疑念を生じさせる一方で、ほとんどの市民は情報機関が果たす役割や秘密保持の必要性を理解していないという。また、政策立案者は情報漏洩を恐れ、NISが提供する情報を拒否することもあると博士は指摘する。
ファイブ・アイズが懸念するのは、韓国の国内政治だけではない。2018年から、同盟国アメリカが貿易に関して中国と衝突しているにも関わらず、韓国の最大の貿易相手国が中国であることだ。The Observatory of Economic Complexityのまとめによると、2018年の韓国の総輸出額は6,170億ドルだが、実にその25.9%である1,600億ドルが中国向けであり、アメリカへの731億ドル(11.9%)の2倍以上を占めている。輸入についても同じような状況にあり、総輸入額5,090億ドルのうち中国からは1,070億ドル(21.1%)で、アメリカからの558億ドル(11%)の2倍近い額になっている。博士は、この中国への高い貿易依存度を背景として、2017年の終末高高度防衛ミサイル(Terminal High Altitude Area Defense: THAAD)配備の際に中国から厳しい経済制裁を受けた経験から、韓国が中国への対応に過度に慎重になり、中立を維持しようとしていると指摘する。
1950年の朝鮮戦争以来、長期間にわたって同盟関係にあったアメリカではあるが、北朝鮮の核開発問題に対する取り組み方の大きな違いや、日韓のGSOMIA破棄通告に関連した韓国政府の発表に対するアメリカ政府との見解の相違など、信頼関係を損ないかねない事態が発生している。一方、2004年から最大の貿易相手国となった中国ではあるが、韓国はそれへの依存度を下げるべくASEANやインドとの協力を図っている。軍事面での同盟国と経済面でのパートナーとの間で、韓国は微妙なバランスをとることに苦心してきた。しかし、ファイブ・アイズが韓国を機密情報共有のパートナーとして受け入れるためには、韓国が国内政治の状況や中国への経済的な依存体質を改善して、信頼を得ることが不可欠だ。
博士が指摘するように、北朝鮮の国内政治や軍事アセットを監視して、質の高い政治軍事情報を入手する必要があった韓国が、アメリカと協力しながら高度な信号情報能力を構築してきたのは間違いないだろう。この点を踏まえれば、韓国がこの情報共有枠組みに参加することは、ファイブ・アイズに北朝鮮の活動を監視するための強力な手段を提供することを意味する。逆に、韓国にとっては、ファイブ・アイズの広範囲な監視能力によって、北朝鮮の活動について把握できる範囲を拡大し、それによって北朝鮮を抑制する可能性を手にするとともに、冒険主義的な行動を続ける中国の監視も可能となる。さらに、ファイブ・アイズの外交・貿易分野への機能拡大の動きとも相まって、韓国は協力国を増やすことで外交・経済関係の多様化を図り、中国への経済依存リスクをヘッジする機会を獲得できる。今日、韓国に求められているのは、こうした相乗効果を理解したうえでの政策決定ではないだろうか。
サンタフェ総研上席研究員 米内 修 防衛大学校卒業後、陸上自衛官として勤務。在職間、防衛大学校総合安全保障研究科後期課程を卒業し、独立行政法人大学評価・学位授与機構から博士号(安全保障学)を取得。2020年から現職。主な関心は、国際政治学、国際関係論、国際制度論。《RS》
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