“よみきかせ”の頻度と質が、将来の学力差につながるかもしれない

2020年1月20日 17:45

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 親になると、よみきかせの重要さを説かれる機会が増える。子どもにとってよみきかせは良いものと、なんとなく思っている人も多いかもしれないが、実際に、よみきかせにはプラスの効能が多い。

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 情緒を育み、語彙の獲得を促し、思考力や読解力の基礎となるのだ。とりわけ語彙の豊富さや思考力、読解力は、学年が上がってゆくと、学力差として表れてくる可能性が大きい。

■“よみきかせ”の基本的効能

 現代日本においては、親となるやすぐに、子どもへの“よみきかせ”のすすめを受けることとなる。

 例えば、「ブックスタート事業」というものがある。乳児健診の際に、本の持ち歩きに便利なトートバッグ、絵本、おすすめ絵本のリスト、図書館の利用案内などが無料配布されるものだ。

 ブックスタート活動を支援するNPOブックスタートのホームページによると、2019年末時点で全国の1,051市区町村が同事業に取り組んでいるという。

 幼稚園や保育園に入園すると、そこでも繰り返し、「よみきかせをしてあげてください」と言われる。園長のあいさつの中であったり、専門家を呼んでの講演であったり、学年便りの記事であったりと、機会はさまざまだ。

 もちろん、図書館の事業としてや、子育て支援の場においても、よみきかせ会は頻繁に行われている。

 よみきかせをすすめられる際には、そのプラスの効能が説明される。

 例えば、「小さい子どもにとっては、本を読むことが重要なのではなく、親のあたたかな膝の上で、親の声で絵本を読んでもらうことによる情緒面でのメリットが大きい」。

 また、「幼いころから本に親しむことは、以後の読書習慣に結びつきやすくなり、活字や読書に抵抗感のない子に育つために重要」、などだ。

 我が子は、膝にのってのよみきかせを大いに喜び、しばしばせがんだ。

 機会があって幼稚園やその他の場所でよみきかせをした際にも、子どもたちはみな、食い入るように絵本を見つめていた。子どもたちがよみきかせを好むことはまず間違いないし、子どもにとっても良いことなのであろうとは、経験から、分かる。

■語彙の獲得差が学力差につながる可能性も

 アメリカでの研究だが、乳幼児期における家庭の言語環境を階層別に調査した結果がある(*1)。

 これによると、子どもが起きているあいだの1時間で、平均して、親が専門性のある職業に就いている家庭で2,153語、中流家庭では1,251語、生活保護受給家庭では616語の語が耳に入るという。これを計算すると、3歳になるまでに、耳にする言葉が3,000万語ほど違ってくるのだそうだ。

 また、子どもが家庭で耳にする語の数と、子どもの語彙の習得・言語発達に関連が見られ、そのギャップは成長とともに差が広がることも分かったという。

 上記の結果を、言語環境についての文化的背景が違う日本にそのまま当てはめることはできない。とはいえ、同様の傾向が全くないとも考えられない。

 当然だが、理解語彙の数の差は、読みこなせる文章の質や量に影響してくる。つまり、幼少期に多くの語彙を得た子どもは、いろいろな本を読めるようになり、そこから興味や発想が広がる可能性が高い。

 これはまた、正のスパイラルを生む。興味が広がるからまた本を読み、読書によって新たな語彙を獲得する。するとさらに読める本が増え、読書からいっそう、豊かな発想を生み出すことができる。

 この事象はおそらく、学力差の要因の一つとなる。

■「制約がないスキル」を育むことにつながる“よみきかせ”

 前節に紹介した研究について述べた論述の中には、よみきかせそのものにまつわる言及もあった。

 よみきかせは「制約がないスキル」を伸ばす可能性があるというのだ。

 「制約があるスキル」とは、文字や数字を覚える、計算をするなど、習得すべき範囲が明確なもの。「制約がないスキル」とは、思考力や読解力、判断力といった、“広がりがあり、終わりのない”ものだ。

 よみきかせの際に、内容や絵について子どもにさまざまに語りかけたり、一緒に考えたりする親の関与が、後者を伸ばすのだという。

 「制約がないスキル」は、子どもの学年が上がるにつれていっそう重要になってくるものであるため、どれだけ身についているかが学力に響いてくる。

■大いによみきかせを楽しもう

 親子でよみきかせを楽しむことは、将来の学力が伸びる可能性へとつながってゆく。

 よみきかせは、なんと言っても、子どもにとってうれしく、楽しい。よみきかせする親のほうも、ゆったりとした時間を過ごすことができ、また我が子が喜ぶ姿を見るのは快い。

 そうであるなら、よみきかせを遠慮する理由はない。興味の赴くまま、いろいろな絵本を親子で楽しみ、それらについて自由に語り合えば良い。結果として、子どもが大きくなったときに必要とする、複雑な思考を支える語彙や読解力が育まれるのならば、一石二鳥だ。

*1 Hart and Risley 1995,2003。『シリーズ・学力格差2《家庭編》学力を支える家族と子育て戦略』第14章(山本洋子氏執筆)での紹介による。

※参考資料
○『シリーズ・学力格差2《家庭編》学力を支える家族と子育て戦略』志水宏吉・監修 伊佐夏実・編著(明石書店/2019・12月刊)
○NPOブックスタート
http://www.bookstart.or.jp/

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