高効率ガソリンエンジンを目指すスーパーリーンバーンエンジンとは

2019年10月27日 15:06

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スーパーリーンバーンエンジンの概要(画像:科学技術振興機構発表資料より)

スーパーリーンバーンエンジンの概要(画像:科学技術振興機構発表資料より)[写真拡大]

 BMWから2017年に世界700台限定で販売されたBMW M4 GTSは、筒内水噴射システムを取り入れた世界初の量産車として注目を集めた。その技術を日本でも内閣府所管の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP:エスアイピー)が研究し、2019年2月に多くの大学の協力のもと、水噴射ガソリンエンジンが最大熱効率50%超を達成した。

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 市販車エンジンで50%を超える熱効率は、夢のエンジンといわれてきた。10年以上も前のクルマでは30%程度の熱効率しかなく、現在でやっと40%前後のエンジンが登場したに過ぎない。

 つまり、現代のクルマは60%のエネルギーを無駄に捨てていることになる。そんな中、オールジャパンで研究したスーパーリーンバーンエンジンがガソリンエンジンで51.5%を実現した。このスーパーリーンバーンエンジンと水噴射の組み合わせの実験研究は、世界初である。

 水噴射システムは、ボッシュが開発しBMW M4 GTSに搭載され、431PSのエンジンが500PSまでパワーアップされたことは周知のとおりである。ここまで水の力でパワーが上がる理由は、燃焼室の温度を大きく下げられるからである。

 通常のエンジンは、オイルや冷却水によりエンジンの温度管理を行い最適な燃焼が得られるように制御されている。しかし、エンジン外部から冷却させる技術はどのエンジンにも搭載されているが、エンジン内部を積極的に冷却する技術は燃料を多く噴射するしか方法がなかった。

 そもそもエンジン内部をなぜ冷却する必要があるのかというと、ガソリンの燃焼により、エンジン内部が高温になれば燃料への着火がスパークプラグによるものではなく、高温となった燃焼室で自然着火し燃焼サイクルが狂ってくる。これがノッキングとなるが、昨今のダウンサイジングエンジンは、ターボチャージャーが装着されており、自然吸気エンジンより高温となる。

 この水噴射システムが確立すれば、ターボエンジンのポテンシャルを高めることができ、今までより少ない燃料で今までより大パワーを引き出すことができる。すなわち、低燃費でパワーがありしかも排出される排ガス量は少なくなる、とってもエコなエンジンの登場である。

 そのため、各国では内燃機関のさらなる熱効率向上の研究に余念がなく、2017年に登場したBMW M4 GTSに世界の技術者たちは大いに注目している。そんな中、2019年9月にボッシュは水噴射システムを他メーカーにも供給することを発表した。

 確かに世界はハイブリッドにシフトしているように見えるが、ハイブリッドも内燃機関無しでは作動しないユニットである。そして、内燃機関の可能性をまだ半分も使っていない人類にとっては、この技術をより高めることで、もっと低燃費でクリーンなエンジンに変えることができる。

 多くの市販車に、この水噴射エンジンが搭載されて走るには水補充などの課題もあり実現には時間がかかるだろう。しかし、今まで夢といわれたエンジンがもう手の届くところまで来ていることは事実であり、多くの水噴射エンジンが街を走る日も近いかもしれない。(記事:小泉嘉史・記事一覧を見る

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