「リスクと取らないことこそリスクだ」という話

2019年1月17日 20:20

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 「リスク・マネジメント」とは、“リスクを組織的に管理して、損失等の回避や低減を図るプロセス”と定義されますが、その重要性が東日本大震災以降は、事業継続の観点から一層強調されるようになりました。

 私もそれが大切だということは、それなりにわかっているつもりでしたが、つい最近専門家の方からお話を聞く機会があり、そこでの話は私自身が今まで持っていた認識とは少し違ったイメージのものでした。「リスク・マネジメント」は、ただ「リスクを避けること」だけではないという話です。

 「リスク・マネジメント」は、日本語に直訳すれば「危機管理」となりますが、「危機」の“危”は文字通り危ないということと合わせ、“機”は機会の意味だといいます。
 「リスク」の語源には諸説あるようですが、イタリア語で「勇気をもって試みる」という“risicare”や、アラビア語で「今日の糧を得る」といった意味の“risq”があり、まさにポジティブに何か得るための「機会」の意味です。

 「リスク」には二面性があって、災害や紛争のような「ハザード」の意味で、そこから受ける被害を最小化することがありますが、その一方で、発展を目指して何か行動する際に失敗の芽を先に摘んでおくことや、実行するための安全度を増すという側面があります。リスクを避けるだけでなく、リスクをとって対処するということです。
 「橋を渡らないことではなく、橋を渡るために必要なのがリスク・マネジメントだ」ということでした。

 こういわれると、仕事上の行動や日々の活動が、すべてそれにつながっている感じがしてきます。
 外出しなければ交通事故にあう可能性は限りなく低くなりますが、それでは経験できることがかなり限定されます。
 人間関係の軋轢を避けるだけならば、他人とは一切付き合わなければ良いですが、それでは人を関わることで得られる喜びはありません。
 ネットの炎上防止も、発信をやめるよりも発信のしかたや内容を考えた方が前向きです。
 新規事業や起業などはまさにそうで、そんなことをしなければ失敗することはありませんが、成功する可能性もありません。

 リスクと聞くと、ついつい「危険」を避けることばかりに意識が向きますが、本来はリスクをとって「機会」を作り、そこで起こる問題に向き合うことで、最終的な果実が得られます。
 「リスクと取らないことこそリスクだ」という言葉も目にしました。

 身の回りの「リスク」を見直し、そのかかわり方をあらためて考えると、実はもっと積極的に取り組めることがたくさんありそうです。今までとはもう少し違ったことができるのではないでしょうか。

※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら

著者プロフィール

小笠原 隆夫

小笠原 隆夫(おがさわら・たかお) ユニティ・サポート代表

ユニティ・サポート 代表・人事コンサルタント・経営士
BIP株式会社 取締役

IT企業にて開発SE・リーダー職を務めた後、同社内で新卒及び中途の採用活動、数次にわたる人事制度構築と運用、各種社内研修の企画と実施、その他人事関連業務全般、人事マネージャー職に従事する。2度のM&Aを経験し、人事部門責任者として人事関連制度や組織関連の統合実務と折衝を担当。2007年2月に「ユニティ・サポート」を設立し、同代表。

以降、人事コンサルタントとして、中堅・中小企業(数十名~1000名規模程度まで)を中心に、豊富な人事実務経験、管理者経験を元に、組織特性を見据えた人事制度策定、採用活動支援、人材開発施策、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務の支援など、人事や組織の課題解決・改善に向けたコンサルティングを様々な企業に対して実施中。パートナー、サポーターとして、クライアントと協働することを信条とする。

会社URL http://www.unity-support.com/index.html

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