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ARM、ザイリンクスFPGAでCPUを無償提供 CPUの潮目が変わったのか
ARMは2日、ザイリンクス社のFPGA向け無償Cortex-Mプロセッサ(ARMが提供しているCPUの一つ)の提供により、チップ設計の可能性を拡大すると発表した。
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パソコンやスマホなどの主要な半導体CPU、そのCPUの用途はIoT(モノのインターネット)にも広がる。このCPU業界は、市場毎に覇者が存在する独特な世界だ。例えば、パソコン市場ではインテル、スマホなど組込み市場ではARMなどである。それは、CPUの持つ高速性能や低消費電力などの技術的優位性に加えて、CPUを駆動するソフトウェアの生産性の高さやソフトウェアの再利用性が重要であるためである。
極端な言い方をすれば、市場を制覇したCPUメーカが提供するリファレンスデザインを忠実に再現すれば、パソコンやスマホの基本的なハードウェア部分は完成する。それにOS(CPUを制御するオペレーティングシステム)を搭載し、CPUと互換性のある有償・無償のソフトウェアをインストールすれば、パソコンやスマホの基本動作が可能となる。つまり、市場を制覇した純正のCPUを購入すれば、その市場へ参入する障壁は低くなる一方で、競争原理と大量生産により顧客の購入意欲を増す価格設定にはなるが、CPUが値下がりすることはない。CPUへの参入障壁はその性能以上に、覇者となった時にCPU購入企業が開発した膨大なソフトウェアであり、設計生産性向上の観点からCPUの置換えは困難だ。例えば、パソコン市場で儲けているのは、CPUのインテルとOSのマイクロソフトと揶揄する人もいる。
このCPU業界での市場毎に覇者が決まってきた経験則が、新たな市場への投資や買収劇に繋がる。パソコン市場でのCPUの覇者インテルは2015年、アルテラを2兆円で買収。インテルの狙いは、パソコンに次ぐ成長の柱のスマホへの挑戦ではなく、IoTやサーバ用FPGAに活路を見出したのであろう。インテルの2018.Q2の決算は、データセンターでの売り上げが33%に成長、IoTが5%の結果である。
ソフトバンクは2016年、スマホ市場でのCPUの覇者ARMを3.3兆円で買収。ソフトバンクの狙いは、IoT向けのCPUだ。ARMの2018.Q2の売上は、11.7%減の415億円と芳しくない。利益は前年同期69億円の赤字から、1,452億円(支配喪失に伴う利益1,613億円)の黒字となったが、支配喪失利益を除けば、161億円の赤字となる。当面の利益よりも、成長のための研究投資に注力しているのであろうか。
今回の発表は、FPGA市場トップのザイリンクスとの連携だ。ザイリンクスはFPGA業界トップ。ザイリンクスに次ぐ大手がインテルに買収されたアルテラだ。
成長著しいとされる市場はIoTと人工知能(AI)だ。IoTはその利用形態の多様性と低価格指向から求められる演算方式も多様だ。他方、AIでは深層学習の優位性からCPUに代わりGPU(Graphics Processing Unit)が確たる地位を得ている。
●ザイリンクスFPGA搭載Cortex-Mプロセッサの特長
FPGA市場は2016年~2022年の間で74%増と予想。その中で、ソフトウェアをより急ピッチで開発しつつ、投資額も抑えることが必須の課題。組込み市場で最も使用されているCPUを無償で供与し、その一手段として提供。
その最大のメッセージは、「その際のライセンス費用やロイヤルティは一切不要」だ。ARMと言えば、このライセンス費用とロイヤルティ費用のビジネスモデルで、高い利益率と堅実な経営を実践してきた。
ARMの狙い、もしくはソフトバンクの狙いは、発表資料からは読み取れない。AI市場では既にCPUよりもGPUに関心がシフト。今後も大きな収益を生みだすと思われるCPUも潮目が変わったのであろうか。ロイヤルティ収入はARMの大きな収入源であり、優れたビジネスモデルであることに変わりがないと思われるのだが。(記事:小池豊・記事一覧を見る)
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