【休日に読む】一尾仁司の虎視眈々(2):◆強風の脅威◆

2018年9月9日 09:50

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記事提供元:フィスコ


*09:50JST 【休日に読む】一尾仁司の虎視眈々(2):◆強風の脅威◆
〇関空再開メド焦点、防災論議高まるか〇台風21号(チェービー)は「風の脅威」となった。米ワシントン・ポスト紙が「今年最強」と伝え、海外でも関心が高かったようだが、最大瞬間風速58.1m(関空)を記録した。これは米国基準のカテゴリー3と同4の境目に当たる。カテゴリー5は秒速70m以上で分類される。過去最大は13年11月にフィリピンを襲った「ハイヤン(台風30号)」。風速105mを記録したとされる。通過したレイテ島では80-90%の建物が壊れ、1万人以上の死者が出たと記録される。昨年9月にカリブ海の島国アンティグア・バーブーダを襲ったハリケーン「イルマ」はカテゴリー5のまま通過。島民全員が避難し、300年の文明が消えたとされた。

通常、日本に上陸する場合は台風の勢力が衰えるが、今回は比較的強いままだった。日本近海の海水温が高いためで、今後も同様かそれ以上のことが想定される。防災対策に、「風速70m以上」に耐えられるかどうかの観点を加える必要がある。高潮記録も過去最大となったが、被害は限定的と見られる。近畿から東海は、昭和34年の伊勢湾台風、昭和36年の第2室戸台風で酷い高潮被害を受け、比較的対策が行われた地域。NHKで解説した京大教授も過去の対策効果を指摘していたが、日本土木学会が提言した通り、高さの異なる津波想定や堤防などの老朽化が検討課題となろう。

問題は関空。高潮による浸水被害は比較的早期に回復すると思われるが、強風被害と言えるタンカー衝突による連絡橋破損の修復メドが立っていないためだ。1日平均460便、貨物40便を加えると500便。旅客数7~8万人を捌けなければ、影響は長期化する。関西中心のインバウンド需要に多大な影響を与えると懸念される。貨物は中国を中心にアジア向けが7割、半導体、電子部品、医薬品などで年間85万トン、5.6兆円規模にある。中部空港への代替、伊丹と神戸の3空港一体運営化などである程度はカバーすることになると思われるが、大きな制約を受けることになろう。

関西は6月18日の大阪北部地震や7月上旬の中四国の豪雨禍の影響も残っている。経済の要とも言えるインフラ被害は防災対策論議に広がると見られる。また、国交相は公明党ポストとなっている。実務的にはソツなく対応してきた印象だが、公明党自身が財政再建派だけに、大きなビジョンは提供してこなかった。水面下で、内閣改造攻防が激化していると見られるタイミングだけに、政治的影響も想定される。

安倍政権としては、「世界防災会議・基金創設」を提唱、主導する勢いを示して貰いたいところだ。気象分析の粋を集めれば、CO2温暖化論議の正当性やトランプ政権の脱パリ協定の妥当性にまで論議が及ぶ。巨額防災基金を創設できれば、金融安定化論議に及ぶ。中国の「一帯一路」よりも切実性の高い課題として、世界各国に反響を与えよう。同時に、世界経済にウネリを出すことができよう。スケールの大きいテーマの出現は、膠着感相場からの脱出につながると考えられる。

出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(18/9/5号)《HT》

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