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「成功するまで続ける」と「こだわらずに見切る」の境目
時間はかかりましたが、新規事業を無事に立ち上げることができたある社長は、その秘訣を「成功するまであきらめなかったから」と言いました。成功の理由を「参加し続けること」「ステージに立ち続けること」という話は、よく聞くことがあります。
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その一方、「見切りが大事だ」という人もいます。次の成功に備えて、マイナスを大きくしないために、うまくいかないと思ったら、こだわらずにすぐ撤退するのが正解だといいます。初めにうまくいかないことをいくら続けても、その伸びはたかが知れているので、早めに見切ることが次につながるのだそうです。
どちらもその通りですが、それぞれ矛盾する話でもあります。たぶんその人、その会社の経験や考え方に基づくものであり、どちらが良い、どちらが間違っているという話ではありません。時と場合によって、その両方を使い分けるというのが、一番無難な答えだと思います。
ただ、最近目にした話題で、こんなものがありました。佐賀県にある大型商業施設のイオンが閉店するという話にまつわることです。
「なくなっても大して困らない」という声がある一方、お店で働く従業員の雇用の問題や、イオンがあるから転居してきたという人もおり、地元には様々な波紋を投げかけているようです。「商業拠点の機能を引き継ぐ跡地利用を実現するよう、町長の手腕に期待する」といった声もあります。
実は同じような経緯のショッピングセンターを再生した事例が山口県にあり、テナントの入れ替えと全面リニューアルによって、現在も開店当初に並ぶ集客力を維持しているといいます。
この運営会社の社長は、再生か否かの分かれ目は、「ディベロッパー(運営会社)の性格の違い」と言っています。こちらの運営会社は全国展開のイオンとは異なる地域密着の企業です。
この社長曰く、「全国展開の企業が本社サイドの判断で収益が上がらない店を閉じるドライな判断をするのは、商売だから仕方がない。ただ、自分たちは地元の街づくりの使命を背負っているから、閉店という選択肢は最初から存在しない。それが主要テナント候補と粘り強く交渉する原動力にもなった」と言っています。要は地元への思い入れの違いから、価値判断の優先順位が違っているのです。
こういう大型店の撤退は、決して安易におこなっている訳でないことは十分わかっていますが、それがものすごく困る地域に根差したごく一部の人たちと、まったく影響がない他地域の大多数の人たちとがいて、それを経営指標や数字を使って論理的に分析していけば、たぶん撤退という答えにしかならないはずで、その論理的な判断が、果たして理性や倫理としてどうなのかを考えると、私は少々疑問を感じてしまいます。
スクラップアンドビルドは確かにトレンドですが、大型店の出店で中小の商店はつぶれてなくなり、そこから大型店が撤退すれば、近隣の住民は買い物する場所の選択肢をすべて失います。結果的に、ただ街の機能を壊して終わりとなります。これは都市部で他の店があったり、移動手段を持っていたりする人ならまだしも、地方の高齢者などにとってはとても切実な問題です。
経営の中では、「続けること」も「損切りすること」も、どちらも考えなければなりませんが、「撤退」「見切り」には、その事業の大きさや関係先の多さによって、周辺に大きな影響を及ぼすことがあります。
その影響を最小限にとどめる努力は、撤退する企業ができる限りおこなわなければなりません。そういうことまで含めた判断のバランスが、「成功するまで続ける」か、「こだわらずに見切る」かの境目には必要なのだと思います。
※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら。
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