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【小倉正男の経済コラム】米朝首脳会談は「検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」の文言なし
■「検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」の文言は
交渉ごとは、始まる前は過剰に期待が大きくなるものだ。交渉前は、得るものは大きく、失うものは少ないと見積もりがちである。
それにしてもだが、「米朝首脳会談」は、やられ過ぎの感がしないではない。共同声明に「朝鮮半島の完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」という文言がなかったのはどうだろうか。
抽象的な非核化を唱えているだけで、総論を述べているにすぎない。これでは当事国の北朝鮮が行う「非核化」を検証なしで完全な非核化と信じなさいということになりかねない。
オーディブル(聴こえる)だが、ビジブル(見える)・タンジブル(味わえる)合意にはなっていない。朝鮮半島の非核化は、確かに声としては唱えられているわけだが、まだその段階にとどまっている。確たるものにはなっていない。
企業でいえば、チェック&バランスのない、いわばガバナンスのない合意=共同声明でしかないようにみえるといえば厳しいだろうか。
■交渉で値切られたディール
「朝鮮半島の完全非核化への揺るぎない固い決意を最確認した」という共同声明は出された。しかし、一方で北朝鮮の政治体制については安全が保障された。
北朝鮮としては、最大の眼目を得たともいえるだろう。トランプ大統領は、「時間がなかった」というが、ディールとしてはやられたという感が拭えない。
ネゴシオ(商売)を得意とするネゴシエートル(商売人)としては、交渉で値切られたディールのようなものにみえてしまう。
もっとも北朝鮮としたら、いまの政治体制を保障するということも抽象的であるということになる。体制保障するなら、経済制裁を解除しろ、経済援助しろ、ということになる。体制保障といっても、具体的ではない、ビジブル、タンジブルではないというわけである。
■これでは「ショータイム」になっていない
結局、これでは何も得ていないし、与えてもいない共同声明になっている面がないではない。 もう少し具体的に実行プロセスを詰めなければ、ショーだったということになりかねない。
「選挙のためのショー」という批判が事前からあったが、デモクラシーなのだから、「選挙のため」というのは悪いことではない。しかし、あまりに中身がないショーで終われば、選挙のためにはならない。むしろ、選挙で負けるファクターになることもある。
これでは、「ショータイム」になっていない。トランプ大統領としては、2幕、3幕のショーで中身を見せる必要がある。しかし、本人はそう思っていないフシがある。
トランプ大統領は、「北朝鮮への経済援助は韓国、日本がやる」とおカネは人任せだ。「米韓合同軍事演習は著しくおカネがかかる」と凍結を表明している。アメリカのおカネは使いたくない。
トランプ大統領に「風格」を求めるわけにはいかないが、「アメリカファースト」の身も蓋もないスタンスが露呈している。ないものを求めても仕方がない。自国がどう生き残るのか――、日本にそれが突き付けられている。
(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年~2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)
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※この記事は日本インタビュ新聞社=Media-IRより提供を受けて配信しています。
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