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部下を守るリーダーが、必ずしも人材育成ができていないこと
ある会社のリーダーに、会社から自分のチームに与えられる仕事量とそれに伴う部下の仕事分担について、とてもシビアな人がいました。自分のチームのメンバーの仕事では、できるだけ余計なことをやらせないということを徹底していて、とにかく仕事の効率を重視している人でした。
それを実践していたのは確かなことで、仕事の取捨選択、優先順位づけはほとんどこのリーダーがやっていて、そのおかげがあるせいか、このチームのメンバーたちが過度な残業をしなければならないことや、過剰な業務上の負荷を背負うような場面はほとんどありませんでした。
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チームの運営状況としては素晴らしいことですし、一見したところでは、所属するメンバーがつらい仕事をすることがない良好な仕事環境のように思えますが、メンバーたちからの話を聞くと、それほど単純なことではありません。
「もう少し違う仕事を経験したいが、そうはいかない」「いつも段取りが決められていて、自分で裁量する余地がない」「プラスアルファの仕事に取り組もうとしてもできない」「自分がスキルアップする機会がない」などと、閉塞感を訴えるメンバーたちが大勢いました。
このリーダーは、チームに要求される仕事をいかに少なくするか、いかに負荷が少ない仕事にするかという意識が強く、できるだけチームの仕事の総量を減らし、決められた範囲の仕事だけを効率よくこなすということが意識の中心にあり、自分たちがやらなければならない仕事の負荷(難易度、期間、その他)をいかに減らすかということばかりを考えているようでした。
そういう視点からいけば、メンバーたちには今まで経験してきたのと同じ仕事を、同じやり方でやり続けてもらうのが好ましいということになってくるのは当然のことです。
リーダーが作業効率と負荷軽減を優先して、仕事の分担を考えるようになると、メンバーたちは「今までと同じことを」「今までと同じやり方で」「今までと同じペースで」ということになりますが、それを要求されるメンバーたちからすれば、新しい仕事を経験する機会が失われることになり、ここでは「スキルアップ」という視点が、とても少なくなってきます。
このリーダーは、最善の作業効率を考え、チームメンバーの負荷ができるだけ少なくなることを考え、それが良いチームだと考えていましたが、それは各自が知っていることを、できるだけ今までと同じようにやり方を変えずにやり続けるということでした。
これは新しいことを身につけてスキルアップを図るということでは、正反対の行動になります。物事の大小はあり、どこまで任せられるかという判断の問題はありますが、経験がない仕事を経験しなければ、自分のスキルアップにはつながりません。
メンバーたちに苦しい思いや嫌な思いをさせたくないというリーダーの意識自体は間違ったことではありませんが、反対に苦しさやつらさの経験が人を育てるということもあります。
今までやっていて段取りがわかっている仕事、経験している仕事、熟練している仕事は、少ない負荷で取り組みやすいかもしれません。しかし、それらの枠を決めすぎていて、新たな経験の機会が限定される環境になっているとすれば、人材育成の視点では好ましいことではありません。
ただメンバーたちを守ろうとするばかりでは、スキルアップにつながる取り組みを排除してしまうことになり、そこにはメンバーたちの不満な感情が数多く残ります。
もしも善意であったとしても、部下を守ろうとしていたとしても、その行動が結果的に人材育成を阻んでいることがあります。リーダーはそのことに注意しなければなりません。
※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら。
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