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「良い下積み」と「悪い下積み」と「マイクロラーニング」の話
先日、あるテレビのニュースを見ていたとき、男社会の職場への女性進出の話題がありました。
タクシー運転手や建設現場といったところでしたが、それぞれ新卒の女性たちの奮闘が取り上げられていました。
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そこで見た塗装職人の仕事に就いた女性でしたが、その会社では入社して2、3年ほどの経験でも、かなり有名は建物での仕事や、難しい技術を要する重要な仕事が任されるようです。
紹介されていた新卒の女性も、入社3ヶ月ほどですでに現場に出ていて、塗装面の下地のパテ埋め処理などを手際よくこなしていました。
その中で、仕事中にスマホを取り出して、何か動画を見始める場面があり、その内容は「下地のパテの練り方」というものでした。これからその作業するが、その前に手順を確認しておこうということなのだそうです。
たぶん以前までは、先輩から見て盗めとか、何年か経験を積まなければ教えないとか、そんな「下積み」が、しかも長い期間が必要とされていたと思いますが、今は解説動画などが多数用意されていて、下積みに10年かかると言われていたような仕事を、男女問わず若い職人にどんどん任せるようになっているのだそうです。
今のような人手不足の中では、職人を一刻も早く一人前に育てることが経済原則にもかなっていますから、こんな取り組みはこれからもどんどん広がっていくのだろうと思います。
こういう細かいスキルに特化した短い動画による研修は、「マイクロラーニング」といってアメリカではすでに一般的に行われていることです。現場でわからないことを、短時間でその都度自力で解決できるということは、やはり効率的だと思います。
もちろん、経験を積まなければうまくできないことはたくさんあるでしょうが、それを「下積み」と称してやらせずに先送りするのは、もう時代遅れなのだと思います。
私は「下積みは必要か?」と問われれば、それは必要なものだと思っています。ただ、今まで言われてきた「下積み」の中には、非効率なものや合理的でないものが多数含まれているのは確かです。
そもそも「○○は○年」などと言って個人差が認められていないこともそうですし、一刻も早く育てようとはしていない時間的な概念も良くありません。
私は下積みには「良い下積み」と「悪い下積み」の二通りがあると思っています。
まず、「良い下積み」というのは、その仕事をする上で必要な基本知識やスキルを学ぶためのものであり、将来より大きな仕事をするために実務を通じて学ぶというものです。
例えば、「優れた上司や先輩の下について仕事の補佐をする」というようなもので、こうした下積みは、出世後や独立後にも役に立つことも少なくありません。
私自身のことで言っても、特に下積みだと思っていたわけではありませんが、今になって役立っている昔の教えがたくさんあります。
その一方、「悪い下積み」というのは、序列の中で立場を縛ること、先輩である自分が抜かされないことが目的化しているようなものです。特に年功序列型の組織の場合は、どんなに優秀であっても、若手には重要な仕事が任せにくい構造になっていたりします。
「下積み」と称して、コピー取りやオフィスの掃除、飲み会の幹事などの雑用的な仕事が振られますが、こうした経験は、個人の主観として役に立ったと思うことはあったとしても、本来の仕事に直接役立つことは、たぶんほとんどありません。
また、あたかも時間が経てばいいことがあるかのように見せかけて、安価で従順な単純労働力を確保するために、「下積み」という言葉でつなぎとめていることもあります。
こういう場合は、早く育たれては困るので、あえて仕事を教えないというような状況が起こります。「下積みの悪用」と言われるような事態です。
「下積み」については、特にネット上では最近いろいろ物議があり、必要性の有無が言われています。
これについては、必要な部分もあるし、そうでない部分もあるとしか言えませんが、少なくとも「効率的に一刻も早く一人前に育てる」ということは、すべての人材開発担当者が意識しなければならないことになっています。
私は「良い下積み」が重要な時代になっていると思います。
※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら。
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