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「給与の見える化」や「360度評価」が難しかったこと
「同僚の給与を“見える化”したら、社内はどうなるか?」というコラム記事を見ました。
情報通信業のGMOインターネットでは、給与額の枠とリンクしている「等級ランクの公開」をしているそうです。
同社の人事評価では、6段階の等級とその中にランクがあり、この等級とランクごとに給与額の枠が定められており、自己目標の達成度に応じて給与が決定する仕組みとのことです。
この等級ランクを決めるのが、他部署を含めた、業務に関わる人たちによる匿名の「360度評価」で、会社の人事部は「等級に値する仕事をしているかどうか、保身的な低い目標が減り、次に自分は何をすべきかを考えて目標を立て、自分の立場に責任をもちながら仕事に取り組むようになった」と評価しています。
「360度評価の公平な評価によって不満がなくなった」
「給与額がオープンになったことで、仕事に責任を持つようになった」
という効果があったとのことです。
人事施策というのは、明暗の両面が考えられ、特に悪影響を懸念して躊躇することも多いですが、こういう成功事例ということのは参考になることです。
ただ、私が今まで見てきた「給与見える化」や「360度評価」は、必ずしもこんな好ましい状況ではなく、どちらかといえば失敗と言ってもよいものでした。
まず「給与の見える化」ですが、厳密には給与額を明らかにしたということではなく、「等級ランクの公開」ということでした。ただ、給与額のレンジは当然わかりますから、おおむね推測ができるということでは、「給与の見える化」と言ってもよいものです。
ここで起こったことは、とにかく“上司不満”と“評価結果への不信”の増幅ということでした。
この会社では、従来からの組織風土として、どちらかといえば情報格差や権威を使ってマネジメントしようとする管理職が多く、上司と部下の距離感も近いとはいえなかったため、これを打破するための制度改革ということでした。
しかし、蓋を開けてみると、そもそもの不振や不満の度合いが高く、なおかつ表に出ずに潜在化していたこともあり、「等級ランクの公開」がさらにそれらを増幅、爆発させてしまったということでした。
私にはこれらをどうやって修正、収束させていくかという相談でしたが、一度公開したものをまた元に戻すのでは、さらに不満が膨らみますから、評価制度の見直しやマネージャー教育などの施策をしながら、良い方向に向かうまでには数年の期間が必要でした。
もう一つ、「360度評価」については、ある会社がどうしてもやりたいということで、テスト的に実施したということがありました。わりとおとなしい性格の管理職が多く、自分の役割認識が薄いため、これを刺激したいという意図がありました。
そこで出てきた結果は、ある部分では人気投票、ある部分では一方的なダメ出し、またある部分ではちょっと高めの無難な採点など、あまり有用とは言えない評価でした。
評価項目や評価基準といったものは一応準備されていましたが、やはり他人を評価する経験が少ない一般社員に、ごく簡単なレクチャーだけで実施してしまったという問題がありました。
私がかかわったのは、ちょうどこの後のタイミングです。
このまま続けていけば、慣れで多少は改善される部分もあったでしょうが、「360度評価」の場合は、間で板挟みになる管理職へのプレッシャーが大きすぎるという課題もあり、ここでの導入は見送って、職制や部署をまたがって構成する「三者面談」の導入など、コミュニケーション強化の施策に方向転換をしました。
このように、同じような組み合わせで同じような施策を取ったとしても、その効果の出方は正反対になることがあります。
記事で紹介されていた成功例も、企業スペックを見るとわりと平均年齢が若いIT業界の会社ということで、その風土にうまくはまったということでしょう。他の要因も当然あると思います。
組織改革を進める上で、新しい取り組みをしなければ何も変わりませんが、自社に合わない取り組みでは、せっかくの苦労も台無しになります。
自社の状況をいかに見極めるかは、とても重要なことです。
※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら。
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