【休日に読む】一尾仁司の虎視眈々(3):◆ブレグジット交渉は静かな船出◆

2017年4月2日 10:05

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記事提供元:フィスコ


*10:05JST 【休日に読む】一尾仁司の虎視眈々(3):◆ブレグジット交渉は静かな船出◆

〇混乱懸案のブレグジット交渉、静かにスタート〇

28日、メイ英首相はEU離脱通知書簡に署名した。ドイツ商工会議所は「ブレグジットが長期的にドイツ企業の英国とのビジネスに著しい打撃を及ぼし、投資も大幅に減少する」との見方を発表した。調査対象は1300社。ドイツの対英輸出は16年に3.5%超の落ち込みを示し、既に影響は出ているとした(ドイツの貿易相手国で英国は第5位)。

既に駆け引きは始まっており、英国は楽観的、大陸は悲観的なコメントや予想になりがちだ。その動向を見ながら、市場はブレグジット・ダメージを測ろうとしているが、昨年6月の国民投票結果による大混乱から見れば、ブレグジット売り仕掛けは、かなり限定的にとどまっている。昨日の英ポンド相場は対ドルで0.8%安、1.245ドルだが、離脱通知を睨んだ売り仕掛けは、既に巻き戻され、英株FTSE100指数は0.68%高、最高値揉み合い圏を維持した。

やや驚きのニュースとなったのは、スカイニュースが「ドイツ銀行がロンドンに本部移転を計画中」と伝えたこと。現在建設中のムーアゲート高層ビルの25年賃貸契約を結ぶため、英Secutitiesと協議している。2023年に本部を移転する予定とした。メイ首相がブレグジット交渉の日程を発表した後、米GS、モルガン・スタンレー、JPモルガン、UBSなどがロンドンから移転する意向を表明したのと対照的。

EU域内で営業できる「シングルパスポート制度」が大きな焦点で、日系金融機関のほとんどが、蘭、独、仏に現地法人を作り、ロンドンからの業務移転・縮小を検討している。ただし、実際に移ってみても、域内営業だけでなく、市場アクセスが悪ければ、ロンドンに戻れる身軽さを、金融機関は持つ。例えば、オイルマネーが移らなければ、ロンドンの地位か一気に凋落することにはならないだろう。

大がかりな装置産業である日系自動車メーカーは相次いで英現地生産の継続・強化を表明した。トヨタはバーナストン工場に約330億円投資(英政府は人材育成などで約30億円の補助を表明)、日産はSUVキャシュカイの新型車をサンダーランド工場で生産すると表明、ホンダはスウィンドン工場生産のシビックの対米輸出を開始している。ポンド安が長期化すれば、英国が輸出拠点となる可能性は大きく拡大する。

実際の影響は交錯し、交渉本格化は早くて5月の仏大統領選後(ここにきて中道系独立候補マクロン氏優勢が伝えられ、フレグジット懸念は後退している)、遅ければ秋のドイツ選挙後になると見られる。ロス米商務長官がNAFTA(北米自由貿易協定)の実質的交渉は今年後半以降との見通しを表明しているので、その動向も睨みながらの展開が予想される。なお、ブレグジット交渉期間は2年、NAFTAは1年程度とされる。

自由貿易から保護主義的貿易構造への変化を、市場はユックリと織り込んでいくものと考えられる。短期的な変動相場は行き過ぎ是正を交えたものになると思われる。


以上


出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(17/3/29号)《WA》

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