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【2016年の振り返り】変革の布石? TPPにJA改革、農業は今
金融やその他の事業に手を広げすぎた現在のJAの在り方は農業や農家のやめになっていないという批判は根強い。JAは本来、農家が自主的に設立する草の根型の組織だった。全農が全国に約700ある地域JAを縛るあり方が変われば、未来は開けるかもしれない。[写真拡大]
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に農協改革など2016年は農業についての話題が豊富な年だった。現場の農家からもさまざまな声が上がり、その多くは今後の農政に不安を募らせていた。一方で国や農協に頼らずに自分たちの力だけで農作物を消費者に届けようとする農家も増え、農家=清貧という従来のイメージが取り払われつつもある。日本の農業が目指すところはどこなのか。今年の動きを振り返ってみよう。
一番大きな出来事としては、今年3月に閣議決定され11月9日の参院本会議で承認、関連法も成立したTPPだろう。日本やアメリカ、ニュージーランドやシンガポールなどの環太平洋地域による経済連携協定(EPA)であり、それぞれの国で設定していた関税を撤廃して自由な貿易を促すことで各国の経済が発展を目指すというものだ。平たくいえば、「よりグローバルに」ということだ。医療や薬品、知的財産などその対象は幅広いが中でも日本にとって影響が大きいとされたのが農業だった。
特に懸念されてきたのは、関税が撤廃されることで海外の安い農産物が国内市場に流入して日本の農産物が価格競争に負けることだった。特に飲食店や食品メーカーなどは一般消費者と違い「多少値段が高くても良いものを」とはいかない事情がある。しかし安倍首相が「こたつに入りながら食べるのは、やっぱりみかんだなと思う」と輸入オレンジに対しての優位性を話したように、TPPにより日本の農業の国際競争力が強化されることを政府は期待している。奇しくも参院で承認される前日に最大の加盟国であるアメリカのトランプ次期米大統領がTPPからの脱退を表明し、交渉の先行きは未だに不透明だ。
続いて秋口から盛り上がりを見せたのが、小泉進次郎自民党農林部会長がとりまとめを任されている全国農業協同組合連合会(JA全農)の改革だ。旧態依然の体制が残る組織の重鎮を相手に小泉氏が苦戦している姿をニュースで目にした人も多いだろう。この改革は「補助金頼み」「JAの締め付け」などの批判を浴びている現在の農業政策を改め、農業の生産性向上と農家の収入増を目指しているものだ。しかし政府の規制改革推進会議が11月に1年以内にJA全農の組織を刷新するとの改革案を示すと相手方のJAだけでなく自民党農林族なども「急進的だ」と反発。同月29日、農林水産業骨太方針策定プロジェクトチームが最終案の「農業競争力強化プログラム」を制定したが、内容は自主改革を基本したものに後退した。
それでも、肥料や農薬、機械や飼料などの生産資材の価格を国際水準まで引下げることや現在は国の指定を受けた地域別団体に集約されている生乳の出荷先を生産者が自由に選べるように制度を改めることなど、「持続可能な農業」のために必要な13項目が盛り込まれた。会議はTPP発効に向けて国会で議論が重ねられていた時期とも重なったが、小泉氏は「TPPの行方がどうなろうと日本の農業が危機的な状況にあることに変わりない」と語り、体質強化に向けて改革を続ける考えを示している。
混沌としている農政だが、最後に明るい話題を。今年は「農業IT」「農業IoT」といった言葉も多く使われるようになった年だった。人口減少時代が到来した今、担い手不足や耕作放棄地といった農業が抱えている課題をテクノロジーで解決しようというものだ。たとえば、静岡県内の葉物農家ではハウス内に設置した温湿度センサーや日射量センサー、土壌センサーなどから得られる情報を一括管理。この数値を元に自動管理のハウスの遮光カーテンや窓、循環扇、暖房機などの閾値を週1回設定することで人手をかけずに作物を安定した品質で育てている。
ほかにもGPSやドローンなど、テクノロジーの活用事例はどんどん増えている。民間企業の参入も相次ぎ、従来の農家のイメージが変わりつつある。政策だけでなく、こうした現場の努力やチャレンジにも注目していきたい。(編集担当:久保田雄城)
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