脳への微弱な電気刺激がうつ病などに効果を示すメカニズムを明らかに―理研・毛内拡氏ら

2016年4月9日 21:12

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マウス固定脳における蛍光の発現パターンの矢状面(左右に分ける面)の断面図。上: 比較用の野生型(C57BL/6)マウス脳。下: 作製したG7NG817マウス脳。大脳皮質と海馬の一部に著しいG-CaMP7の発現がみられる。この強い発現のために、蛍光変化を頭蓋骨越しに測定することができる。(理化学研究所の発表資料より)

マウス固定脳における蛍光の発現パターンの矢状面(左右に分ける面)の断面図。上: 比較用の野生型(C57BL/6)マウス脳。下: 作製したG7NG817マウス脳。大脳皮質と海馬の一部に著しいG-CaMP7の発現がみられる。この強い発現のために、蛍光変化を頭蓋骨越しに測定することができる。(理化学研究所の発表資料より)[写真拡大]

 理化学研究所の毛内拡研究員、平瀬肇チームリーダーらの共同研究グループは、うつ症状の改善効果を持つことが知られている微弱な直流電気による脳への刺激がマウス脳機能に与える影響と、作用メカニズムを明らかにした。この成果は、うつ病などの精神疾患に対して新たな創薬や治療法の開発につながる可能性があるという。

 頭皮の上から微弱な直流電気を流し、頭蓋骨を介して脳を刺激する「経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)」と呼ばれる手法が、ヒトではうつ病などの気分障害の改善や、運動機能障害のリハビリテーション、記憶力の向上などの効果を持つことが知られている。しかし、詳しい作用メカニズムはこれまで解明されていなかった。

 今回の研究では、まず細胞内カルシウム濃度に応答して蛍光を発するタンパク質(G-CaMP7)を一部のニューロンとアストロサイトの両方に発現した遺伝子改変マウス「G7NG817マウス」を作製し、これが「マクロレベルの脳機能マッピング」に有用であることを見出した。

 この右脳の一部にtDCSを0.1mAで10分間行い、頭蓋骨の上からカルシウム動態を蛍光実体顕微鏡で計測したところ、刺激開始直後からゆっくりとした非常に明るい応答が、左脳を含む大脳皮質全体にわたって観測された。

 さらに詳しい観測を行った結果、tDCS中に増加した明るいシグナルは、アストロサイト由来であることを発見した。さらに、α1アドレナリン受容体(A1AR)の働きを阻害するプラゾシンを投与した場合、tDCSによるアストロサイトのカルシウム応答が消失すること、tDCSを行なったマウスでは、60分間で脳波応答の大きさが平均約35%増大し、シナプス伝達が増強することなどを明らかにした。

 これらの結果から、tDCSを行なうことで、ノルアドレナリンが放出され、アストロサイトのカルシウム上昇を介してシナプス伝達の増強を起こしやすくなるということが明らかになった。この成果を応用することで、うつ病などの精神疾患に対してアストロサイトを標的とした創薬や治療法が新たに開発できる可能性がある。

 なお、この内容は「Nature Communications」に掲載された。論文タイトルは、「Calcium imaging reveals glial involvement in transcranial direct current stimulation-induced plasticity in mouse brain」。

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