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1細胞レベルの成長ゆらぎがあることで、細胞集団はより速く成長できる―東大・若本祐一氏ら
1細胞計測システム「ダイナミクスサイトメーター」によって観察される大腸菌の顕微鏡写真(上段)、観察画像の解析によって得られる個々の細胞内での遺伝子発現量の表現型ゆらぎ(中段)、細胞サイズの表現型ゆらぎ(下段)。(東京大学の発表資料より)[写真拡大]
東京大学の若本祐一准教授らの研究グループは、大腸菌のクローン細胞集団を1細胞レベルの精度で100世代以上の長期にわたって連続観察可能な計測システムを開発し、細胞レベルの成長ゆらぎが大きいほど、それら細胞によって構成される細胞集団がより速く成長できることを明らかにした。
同一遺伝情報をもつクローン細胞集団を、同一の環境条件下に置いたとしても、個々の細胞の遺伝子発現状態や成長能などの性質(表現型)には、しばしば大きなばらつきが観察される。このような「表現型ゆらぎ」は原核生物、真核生物を問わず一般的に見られる普遍的な現象である一方、そのようなゆらぎは生物にとって単なるノイズなのか、もしくは何らかの役割を担っているのかは、未だ明確には理解されていない。
今回の研究では、大腸菌を対象として、細胞の状態変化を厳密な環境制御下で100世代以上の長期にわたって連続観測可能な新たな計測システム「ダイナミクスサイトメーター」を開発し、このシステムを用いることで、細胞レベルで見られる成長ゆらぎの性質と、それらの細胞によって構成される細胞集団の性質を詳細に調べた。
その結果、一定の環境下に置かれたクローン細胞集団は、その集団を構成する内部の細胞の平均的成長率よりも高い成長率で増殖ができることがわかった。また、細胞の成長ゆらぎが大きいほど、集団レベルの成長率と細胞レベルの平均的成長率の相対的な差が大きくなることも明らかにした。
今回の結果は、表現型ゆらぎには、細胞集団が速く増殖できるようにするという明確な役割があることを示している。また、細胞集団の成長能が細胞の平均的な成長能と必ずしも一致しないことも示しており、細胞集団を対象とした計測結果が細胞の典型的性質を反映するという従来の解釈には注意が必要であることを示唆しているという。
研究グループは、今回の研究で開発した計測システムが、大腸菌以外の細菌種や、ヒトの細胞も含む真核細胞の解析にも応用されることが期待されるとしている。
なお、この内容は「Proceedings of the National Academy of Sciences」に掲載された。論文タイトルは、「Noise-driven growth rate gain in clonal cellular populations」。
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