長時間のビデオゲームは、小児の脳の発達や言語性知能に悪影響を与えることを発見―東北大・竹内光氏ら

2016年1月7日 18:12

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ビデオゲームプレイ時間と言語性知能(左)、ビデオゲームプレイ時間と数年後の言語性知能の変化(右)の関連(東北大学の発表資料より)

ビデオゲームプレイ時間と言語性知能(左)、ビデオゲームプレイ時間と数年後の言語性知能の変化(右)の関連(東北大学の発表資料より)[写真拡大]

 東北大学加齢医学研究所は5日、同研究所の研究グループが小児の縦断追跡データを用いて、ビデオゲームプレイ習慣が数年後の言語知能や脳の微小形態の特徴とどう関連しているかを解析し、ビデオゲームの長時間プレイが神経系の好ましくない神経メカニズムの発達と言語知能の遅れとつながることが示されたと発表した。同研究所では、発達期の小児の長時間のビデオゲームプレイには、一層の注意が必要であると注意を促している。

 発表したのは、同研究所の認知機能発達(公文教育研究会)寄附研究部門の竹内光准教授・川島隆太教授らの研究グループ。これまでにMRI等の脳機能イメージング装置を用いて、健常小児の脳形態、脳血流、脳機能の発達を明らかにすると共に、どのような生活習慣が脳発達や認知力の発達に影響を与えるかを解明してきた。

 今回、研究グループは、脳の微小な形態学的特徴を明らかにできる脳画像解析、大規模なデータ、数年の期間をおいた縦断解析といった手法を用いて、発達期のビデオゲームプレイの言語機能や広汎な神経メカニズムへの悪影響の神経メカニズムを新たに明らかにした。

 これまで、ビデオゲームプレイは視空間能力に対する好影響などが知られている一方で、特定タイプの言語記憶、注意、睡眠、学業、知識などに対する悪影響などが知られていた。またビデオゲームをプレイしている時は、快感や意欲に関わる神経伝達物質のドーパミン系のシステムにおける多くのドーパミン放出が起こり、ビデオゲームは中毒につながりうることも知られていた。

 また、これまでの脳画像研究においては、ゲームプレイ習慣が、背外側前頭前皮質や前頭眼野などの灰白質量などの大きさと関係していることが知られていた。これらの知見は、上述のビデオゲームプレイのポジティブな効果と結び付けられてとらえられていた。一方で上述のビデオゲームの言語系などやドーパミン系のネガティブな影響と関連した長期の神経基盤の変化は知られていなかった。

 今回の研究では、拡散テンソル画像解析とよばれる手法の拡散性と
いう指標を用いこれらを縦断研究で明らかにすることを目的とした。この指標は組織の密、疎の程度を表し可塑性のよい指標となることが知られている。とくにドーパミン系の拡散性はドーパミンと関連した薬理、認知、病理変化の影響を強くうけることが知られていた。

 研究参加者は、一般より募集した、悪性腫瘍や意識喪失を伴う外傷経験の既往歴等のない健康な小児とした。これらの研究参加者は最初に日々のビデオゲームプレイ時間を含む生活習慣などについて質問に答え、知能検査をうけ、MRI撮像を受けた。この時点では研究参加者の年齢は5歳から18歳(平均約11歳)に及んだ。これらの研究参加者の一部が、3年後に再び研究に参加し、再び知能検査と MRI撮像を受けた。

 研究チームはまず、解析に必要なデータが揃っている283名の初回参加時の行動データ、240名分の脳画像データを解析し、平日に被験者がビデオゲームをプレイする平均時間と言語性知能、動作性知能、総知能、脳の局所の水分子の拡散性とよばれる指標の関係を調べた。

 次に解析に必要なデータが揃っている223名の初回参加時と2回目参加時の行動データと189名分の初回参加時と2回目参加時の脳画像データを解析し、初回参加時における平日にビデオゲームをプレイする平均時間が、どのように各参加者の初回から2回目参加時の言語性知能、動作性知能、総知能、脳の水分子の拡散性の変化を予測していたかを解析した。

 これらの解析においては、性別、年齢、親の教育歴、収入、親子の関係の良好性、居住地域の都市レベル、親子の数等各種交絡因子を補正し、縦断解析の場合は、さらに初回参加時の値等の種々の交絡因子を補正した。

 これらの解析の結果、初回参加時における長時間のビデオゲームプレイ習慣は、初回参加時の低い言語性知能と関連し、初回参加時から数年後の2回目参加時へのより一層の言語性知能低下につながっていた。同様に初回参加時における長時間のビデオゲームプレイ習慣は、初回参加時の前頭前皮質、尾状核、淡蒼球、左海馬、前島、視床等各領域の水の拡散性の高さ(高いほど水が拡散しやすく組織が疎であることの証拠)と関連しており、さらに初回参加時から数年後の2回目参加時へのこうした領域の発達性変化への逆の影響(水の拡散性の発達に伴う減少がより少ない)と関連していた。また、言語知能、動作性知能、総知能のいずれも、共通して、左海馬、左尾状核、左前島、左視床、周辺の領域の水の拡散性と負相関していた。

 今回の成果より、小児における長時間のビデオゲームプレイで、脳の高次認知機能に関わる領域が影響をうけ、これが長時間のビデオゲームプレイによる言語知能の低下と関連することが示唆された。こうした領域には海馬(記憶や睡眠)、外側前頭前皮質(実行機能、作動記憶)、代表的なドーパミン作動系領域である尾状核や眼窩皮質の他前島(いずれも報酬、意欲)が含まれ、対応する機能への影響が示唆された。とくにドーパミン作動系領域の拡散性の増大は、メタアンフェタミンの長期ユーザーでも見られる特徴で、ビデオゲーム長時間プレイ者での相同の神経改変を疑わせた。

 ビデオゲームプレイは小児の日常生活において大きな幅を占めるものになっている。この研究の成果は、ビデオゲームプレイの長時間プレイが神経系の好ましくない神経メカニズムの発達と言語知能の遅れとつながることを示唆しているとし、同研究グループは、今回の知見により、発達期の小児の長時間のビデオゲームプレイには一層の注意が必要であるとしている。

 この研究成果は、米国精神医学雑誌Molecular Psychiatryに採択された。論文は1月5日に電子版が発行された。(記事:町田光・記事一覧を見る

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