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【不動産業界の4~9月期決算】企業向けの賃貸オフィスビル、商業施設も、個人向け分譲住宅も、投資家向け物件も好調
11月10日、不動産大手5社の4~9月期決算が出揃った。全社が増収増益で、三菱地所以外は2ケタの最終増益。通期業績見通しを三菱地所、東急不動産HD、野村不動産HDが上方修正した。各社の決算短信でよく見かけるフレーズは、オフィスビルは「空室率の低下」、商業施設は「インバウンド消費もあり集客好調」で賃貸事業については「賃料の引き上げ」が進んで好調。マンションなど分譲住宅も投資家向けの物件も販売に陰りは見られない。フィットネスクラブのような関連事業も順調。海外プロジェクトでリスクにさらされても国内事業で十分カバーできる状況。テナント企業の業績も地価も金利情勢も当分の間は不安要素になりそうにない。
しかし、三井不動産レジデンシャルが分譲した横浜市都筑区のマンションが傾いた問題と、それに関連した旭化成建材の杭打ちデータの改ざん問題は、販売物件がそれと全く無関係であっても消費者が疑心暗鬼になる「風評被害」が起き、問題が完全にクリアされるまでは様子を見てモデルルームの訪問客が減るなど、今後のマンションの販売動向に微妙な影響を及ぼす懸念がある。
■オフィスビルの空室率は低下、賃料は上昇
4~9月期の実績は、三井不動産<8801>は売上高6.8%増、営業利益19.0%増、経常利益33.2%増、四半期純利益42.7%増の増収、大幅増益。最終利益は4~9月期としては過去最高を更新。中間配当は前年同期比3円増の14円とした。賃貸事業は4月開業の「ららぽーと富士見」(埼玉県富士見市)など新規開業の商業施設が順調で、オフィスビルの空室率も低下して営業利益18%増。分譲事業は、個人向け住宅分譲の計上戸数は中高層、戸建合計で25%増え、新築マンションの契約進捗率は97%で営業利益26%増。オフィスや商業施設のREITなどへの投資家向け売却益も伸びている。
三菱地所<8802>は営業収益10.6%増、営業利益25.5%増、経常利益32.1%増、四半期純利益5.3%増の増収増益。中間配当は前年同期比1円増の7円とした。賃貸事業自体は東京・丸の内を中心にテナントが増え空室率が低下している。丸の内では従来の5~10%増しの賃料での契約更新が進んでいるという。アウトレットモールなど商業施設も訪日外国人のインバウンド需要も加わり来店客数が順調に伸びている。
住友不動産<8830>は営業収益4.4%増、営業利益11.6%増、経常利益18.5%増、四半期純利益24.4%増の増収、2ケタ増益。中間配当は前年同期比1円増の11円とした。純利益は4~9月期としては過去最高。オフィスビルの空室率が前年同期比0.6ポイント減って4.8%まで低下し、テナント賃料の増額改定が進んでいる不動産賃貸も、マンションの契約戸数が前年同期比12%増の不動産販売も、ともに好調だった。
東急不動産HD<3289>は売上高9.0%増、営業利益18.5%増、経常利益21.4%増、四半期純利益31.8%増の増収、2ケタ増益。中間配当は前期比0.5円増の5.5円とした。4~6月期の減収から増収に転じた。主力のオフィスビルの賃貸事業は企業の旺盛な需要を背景に空室率が低下し、賃料の引き上げも進んでいる。投資家向けビルの売却益の増加や、不動産仲介事業、「東急ハンズ」、会員制リゾートホテル「ハーヴェストクラブ」、フィットネスクラブ「オアシス」の好調さも増収増益に寄与した。
野村不動産HD<3231>は売上高20.5%増、営業利益39.5%増、経常利益48.1%増、四半期純利益92.3%増の大幅増収増益。2ケタ減益だった前年同期を大きく上回り、2ケタ減収減益の4~6月期とは3ヵ月で状況が一変した。中間配当は前年同期、当初予想より2.5円増の27.5円とした。主力の住宅事業では東京23区内の大型マンションの引き渡しがあり売上高に加わった。単価が高い都心物件は人気があり完売が早いので販促費が少なくすみ、増益に二重に貢献している。賃貸事業では、東京都港区の大型オフィスビル「浜松町ビルディング(東芝ビル)」に東芝<6502>に代わる新しいテナントが入って空室率が低下したことが増収に貢献した。7月30日にスポーツクラブのメガロスを株式交換で完全子会社化し、収益源の多角化も図った。
■通期業績見通しは手堅く達成できる見込み
2016年3月期の通期業績見通しは、三井不動産は売上高5.3%増、営業利益4.8%増、経常利益4.7%増、当期純利益6.8%増、予想期末配当は前期と同じ14円、予想年間配当は前期比3円増の28円で修正はなかった。4~9月期の最終利益の通期業績見通しに対する進捗率は62.6%だった。子会社の三井不動産レジデンシャルが販売した横浜市都筑区のマンションが傾斜した問題に関連する費用を現時点で「決算に織り込んでいない」としているが、一連の問題のおおもとの当事者企業だけに、成り行き次第では下半期の業績の不確定リスクにもなりそうだ。
三菱地所は通期業績見通しを上方修正し、営業収益を80億円上積みして10.4%減から9.7%減に、営業利益を150億円上積みして13.6%減から4.1%減に、経常利益を120億円上積みして15.1%減から6.1%減に、当期純利益を50億円上積みして4.6%減から2.3%増に、それぞれ修正した。前期から1円減の7円の予想期末配当、前期と同じ14円の予想年間配当には修正なし。4~9月期の最終利益の通期業績見通しに対する進捗率は75.0%だった。
減収要因は再開発に伴い賃貸ビルの一部を閉鎖する影響。上方修正の理由はビル事業でオフィス賃料が上昇して賃貸収益が伸びたこと、生活産業不動産事業で物件売却計画の見直しを行い、売却額が増加する見通しになったこと。投資有価証券売却益150億円を特別利益に計上する見込みで、最終利益は減益から増益に変わった。三菱地所レジデンスが分譲した約80件のマンションについては旭化成建材が施工した事例がなく、販売に目立った影響は出ておらず業績の悪化要因とはみていないという。
住友不動産は、営業収益5.4%増、営業利益4.9%増、経常利益5.7%増、当期純利益9.2%増の通期業績見通しも、前期と同じ予想期末配当11円も、前期比1円増の予想年間配当22円も修正していない。4~9月期の最終利益の通期業績見通しに対する進捗率は53.5%だった。通期の営業利益の増加分に占める賃貸事業の割合は7割近くに達する見通し。不動産販売事業の分譲マンションの物件引き渡しが下半期にやや集中しているのも業績の支えになりそうだ。旭化成建材の杭打ちデータ改ざん問題は、販売中の物件で杭打ちを旭化成建材が手がけた物件がなく、現時点で影響は出ていないという。
東急不動産HDは通期業績見通しの売上高を200億円上積みして0.9%増を3.5%増に上方修正した。営業利益2.7%増、経常利益0.6%増、当期純利益5.0%増は修正なし。前期比0.5円増の予想期末配当5.5円も、前期比1円増の予想年間配当11円も修正していない。4~9月期の最終利益の通期業績見通しに対する進捗率は55.9%だった。売上高上方修正の理由は、「都市事業セグメント」で投資家向けビルの売却収益の増加を見込んだため。大隈郁仁社長は好調な主力の賃貸事業について、中期経営計画最終年度の2021年3月期の営業利益の達成目標を、今期見込みから27%増の500億円超としている。東急不動産は過去10年以内に竣工したマンションについて問題はないか調査中。
野村不動産HDは通期業績見通しの売上高を100億円減らして3.1%増から1.4%増に下方修正したが、営業利益は30億円積み増して1.5%増を5.7%増に、経常利益は30億円積み増して0.5%増を5.2%増に、当期純利益は20億円積み増して1.1%減を4.1%増に、それぞれ上方修正した。予想配当も、期末配当は25円を2.5円増の27.5円に、年間配当は50円を5円増の55円に、それぞれ上方修正している。4~9月期の最終利益の通期業績見通しに対する進捗率は56.1%だった。
住宅事業も賃貸事業も下半期は増益が予想され、「メガロス」など運営管理事業も増収増益を見込んでいる。2025年3月期までに営業利益を2016年3月期の見込みの2倍の1500億円に引き上げる計画がある。販売したマンション50物件で旭化成建材が施工に関わった事例はなかったという。(編集担当:寺尾淳)
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