先端医療振興財団、アルツハイマー病の新たなターゲット分子を発見

2015年8月1日 10:39

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 先端医療振興財団は28日、同財団の星美奈子客員上席研究員らの研究グループが、アルツハイマー病の脳で起こる神経細胞死の新たなターゲット分子を発見したと発表した。これまで不明だった神経細胞死のメカニズムがひとつ明らかになり、アルツハイマー病治療薬の開発に役立つことが期待されるという。この研究成果は米国科学アカデミー紀要「PNAS」の電子版に掲載された。

 脳の機能は、神経細胞が「シナプス」という場を介してネットワークを形成することで保たれている。認知症の約6割を占めるアルツハイマー病では、神経細胞のシナプスにまず異常が起こり最終的には神経細胞自体が失われることで脳の高次機能が低下する。

 仮説では、この神経細胞の傷害は、「アミロイドβ」(Aβ)と呼ばれる小さいタンパク質が凝集して「Aβオリゴマー」と呼ばれる集合体を作ることで神経細胞に対する毒性を持つためと考えられてきた。しかし、神経細胞死の原因となるオリゴマーの実体と、その分子メカニズムは解明されていなかった。

 星らの研究チームはこれまでに、「アミロイドβ」が約 30 個集まって直径10-15nm のサイズの球状構造を取ることで強い神経毒性を持つようになることを発見し、この新たな球状構造体を「アミロスフェロイド(amylospheroids、以下ASPD)」と名付けた。さらに、ASPDを選択的に認識する抗体を作製し、この抗体を用いることで、アルツハイマー病患者脳内からASPDを単離する方法を確立した。

 今回、これらの成果をさらに発展させることで、神経細胞死におけるASPDのターゲットが、神経の生存と機能に極めて重要な役割を果たしているシナプスタンパク質「Na+、 K+-ATPaseポンプのα3 サブユニット(以下 NAKα3)」であることを初めて発見した。

 ASPD の結合により NAKα3 の機能が低下し、神経細胞が過剰に興奮することで、神経細胞は死に至る。このような神経細胞の過剰興奮は、アルツハイマー病患者脳で神経細胞死が起きる初期の現象として報告されていたが、そのメカニズムは不明だった。

 研究グループは、ASPD に結合する 4 アミノ酸のペプチドを発見し、この ASPD 結合ペプチドが ASPD 表面を覆い隠すことで、ASPD と NAKα3 との相互作用を阻止し神経細胞死を抑制することが出来ることも発見した。その結果、ASPD 結合ペプチドの分子サイズは低分子化合物に匹敵するほど小さく、アルツハイマー病で起こる神経細胞死に対する新たな治療薬開発につながることが期待されるという。

 今後、ASPDがどのように脳内で作られ、発症の時系列においていつ形成されるのかを明らかにしていく予定。ASPDの場合、健常な老人の脳ではほとんど検出されないことから、「アミロイドβ」が脳内に蓄積され始める初期からではなく、その後の段階で形成されているのではないかと予測されており、研究チームは今後の課題として取り組む。

 臨床応用については、ASPD 自体をワクチンとして用いる免疫療法、
そして、ASPD結合ペプチドから低分子治療薬を開発する方法の主に2つの戦略について、京都大学発ベンチャーである TAO ヘルスライフファーマ株式会社において今後進めていく予定だという。(記事:町田光・記事一覧を見る

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