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学習によって脳の情報処理が変化する仕組みを解明
頭部を固定された状態のマウスによる回避学習課題。左)実験設計の模式図。頭部を固定されたマウスは画面から映し出された視覚刺激に反応し、3.5秒以内にトレッドミルの上をあらかじめ設定された速度以上で走ることで、微弱な電気刺激を回避できる。右)マウスのランニングの例。1日目は視覚刺激に関係なく走ったり、またはトレッドミル上で止まっているが、4日間の学習を通じてマウスは視覚刺激が現れると素早く反応し、走り始めるようになる。(科学技術振興機構(JST)の発表資料より )[写真拡大]
カリフォルニア大学の小宮山尚樹アシスタント・プロフェッサー、牧野浩史博士らは、大脳視覚野の活動が、学習前は外部世界からの情報に強く影響されるのに対し、学習後は予測、期待または注意といった脳内部からの信号に大きく影響されるようになることを明らかにした。
学習は、日常の経験を通じて、過去の経験に基づいて脳が構築する「内部モデル」を脳内に構築していく過程だと考えられている。しかし、学習によって脳内の信号伝達の仕組みがどのように変わるのかは分かっていなかった。
今回の研究では、興奮性神経細胞や抑制性神経細胞を個別に観測できる遺伝子改変マウスを利用し、神経細胞の活動を大脳視覚野で観測した。その結果、脳内部モデルからの予測、期待または注意といった情報を伝えるとされるトップダウン入力を可視化できるようになり、学習を通じて大脳視覚野に対するトップダウン入力の影響が強まることが示された。
また外部世界からの情報処理に関わるとされるボトムアップ入力は学習が進むにつれて次第に減少すること、トップダウン入力を制御していると考えられる特定の抑制性神経細胞群の活動が下がることが明らかになった。
今後は、本研究成果が、統合失調症などの精神疾患における幻覚や妄想などの発症機序を解明することに繋がると期待されている。
なお、この内容は「Nature Neuroscience」に掲載された。論文タイトルは、「Learning enhances the relative impact of top-down processing in the visual cortex」(学習により大脳視覚野におけるトップダウン情報処理の相対的な影響が強化される)。
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