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大阪発のIoTベンチャー投資ファンドに住宅、電鉄、機械の大企業が出資する理由
5月28日、大阪市がIoT(インターネット・オブ・シングス)関連のベンチャー企業に投資するファンドに5億円を出資することを発表した。
ベンチャーキャピタル(VC)の「ハックベンチャーズ」が設立した「ハック大阪投資事業有限責任組合」に、大阪市の他、独立行政法人中小企業基盤整備機、民間企業が出資する。この官民ファンドは当初48億円でスタートするが、今後、追加出資を募って100億円規模まで拡大したいという。「大阪や関西に蓄積された技術や事業ノウハウと、米国シリコンバレーの最先端かつ革新的なビジネスモデルを組み合わせることにより、ITによる産業革新の波を引き寄せ、日本、関西に世界的に競争力のある事業を創造することを目指す」というのが、その設立目的である。大阪がベースだが、創業する地域にはこだわらないという。
公募で選ばれた母体のハックベンチャーズは2013年に設立された新興VCで、ほとんどのVCが東京を拠点とする中、大阪市に本社を置いている。代表の校條(めんじょう)浩氏はMIT(マサチューセッツ工科大学)で工学修士号を取得後ボストンコンサルティングを経てITベンチャーの本場シリコンバレーでベンチャー投資事業にたずさわったという経歴を持つ。橋下徹市長に請われて大阪市の特別顧問を1年間務め、「グランフロント大阪 ナレッジキャピタル」に世界中から人材、情報、資金が集まりイノベーションのエコシステム創出を目指す「大阪イノベーションハブ」など、大阪市独自のベンチャー支援策に関与してきた。
大阪証券取引所の現物株市場も、ベンチャー向けの新興市場もみんな東京に移転してしまった今、関西は東京に比べてベンチャーの資金調達の環境がぜい弱だと指摘されることがある。大阪や関西の優秀な人材を発掘、育成できるようにベンチャーファンドによる資金支援のしくみを整え、それをテコに停滞気味の関西経済を活性化したいというのが、大阪市の狙いでもある。
「ハック大阪投資事業有限責任組合」の出資者には、みずほ、三井住友、三菱UFJの3大メガバンク、投資会社Mistletoe、積水ハウス<1928>、阪急阪神HD<9042>傘下の阪急電鉄、日立造船<7004>という大手の事業会社が並んでいる。
投融資が主要業務の銀行や投資会社はわかるとしても、住宅メーカーの積水ハウス、電鉄会社の阪急電鉄、機械メーカーの日立造船(社名は造船だが、すでに造船事業からは撤退)がなぜ出資を決めたのか?
それはファンドが投資先として特化する領域にある。「ITによってスマート化が急速に進む領域」である「IoT(インターネット・オブ・シングス)」関連は「住宅のスマート化」「自動車のスマート化」「医療のスマート化」「物流のスマート化」「農業のスマート化」など、出資会社の事業にも密接に関わってくる。
積水ハウスでは、ITを活用した住宅でのセキュリティの向上やエネルギー利用の最適化、高齢者の健康見守りサービスなど、他業種の企業や大学と共創することで研究開発を進めている。例えば各種センサー技術やスマートハウスやスマートシティなど、暮らしの質や利便性を高めていくための「IoT」の新規技術の研究・開発、導入は、住宅の魅力向上にもつながる。
阪急電鉄は大阪・梅田に所有する「阪急ファイブアネックスビル」内に、起業したばかりのスタートアップ企業を支援する格安の会員制オフィス「グローバルベンチャーハビタット(GVH)大阪」を2011年1月にオープンさせている。今年3月には自ら起業家支援ファンド「梅田スタートアップファンド1号」を立ち上げるなど、関西でのベンチャー支援に並々ならぬ意欲をみせている。
日立造船は、関西イノベーション国際戦略総合特区の咲洲(さきしま)コスモススクエア地区に大阪本社ビルを建設するなど、大阪市のプロジェクトには縁が深い。今年1月には大阪商工会議所で技術ニーズを公開してパートナーを募る「MoTTo OSAKAフォーラムWith日立造船」を開催するなど、関西発のイノベーションに期待している。
このように、大阪市の肝いりで発足するベンチャーファンド出資に手を挙げた三社の、共通する願いは大阪市と同じく「関西経済の復権」だろう。ベンチャーがどんどん立ち上がって経済の新陳代謝が活発になることで、結果的には社業にもプラスとしてはね返ってくる。それを見越した先行投資の意味合いも含まれているのだろう。ファンドの第二次募集以降、関西のどんな企業が後に続くか注目していきたい。(編集担当:寺尾淳)
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