サルは“ゼロ”を認識している―東北大、ゼロに強く反応する脳細胞を発見

2015年5月26日 21:26

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今回の研究で実施した数の加減操作課題 のイメージ。(図:東北大学医学系研究科の発表資料より)

今回の研究で実施した数の加減操作課題 のイメージ。(図:東北大学医学系研究科の発表資料より)[写真拡大]

  • サルは、「有無としてのゼロ」と「順列としてのゼロ」という2種類のゼロを認識した。(図:東北大学医学系研究科の発表資料より)

 東北大学の虫明元(むしあけはじめ)教授・奥山澄人(おくやますみと)元助手らの研究グループは、サルを用いた実験で、脳に数の0(ゼロ)に強く反応する細胞があることを世界で初めて発見した。これは、霊長類が言葉や数字記号がなくてもゼロを認識できることを示唆するもので、人がどのように数を理解するかというメカニズムの理解につながることが期待される。

 数としての0(ゼロ)の概念は、古代インドで成立したと言われている。ゼロには2つの概念があると考えられており、ひとつは存在が無いという意味でのゼロ、もうひとつは0,1,2,3……という順列としてのゼロである。

 今回の研究では、モニター画面に最初に提示された白丸の数を記憶し、次に与えられた白丸の数を増やしたり減らしたりすることで最初の数に合わせる課題をサルに行わせ、その時の神経細胞活動を調べた。

 その結果、ゼロで強く反応する神経細胞が多数見つかり、このようなゼロで最も活動が高い細胞をゼロ細胞と新しく名づけた。ゼロ細胞は、ゼロ以外の数には全く応じないデジタルゼロ細胞と1にも活動するアナログゼロ細胞があり、これはヒトが持っている「有無としてのゼロ」と「順列としてのゼロ」にそれぞれ相当することになる。

 最近の行動経済学では、無料と価格との間には特別の関係があることがわかっている。有料の中でいくら無料(ゼロ)に近くても好まれないもの(製品)が、無料となった途端に選り好み(価値判断)が逆転したりする。このような事例から、脳の中に2つのゼロ細胞、デジタルゼロ細胞とアナログゼロ細胞が存在するということは、それぞれが異なる価値判断に結びつく可能性を示唆している。

 研究チームでは今後、数の判断に関する脳の働きを調べることで、行動経済学などで見つけられた数に関わる判断の偏りや状況に依存して起こる不合理な判断を、脳科学をもとに理解することを目指すという。それによって、人為的な判断ミスや錯覚を避け、人が正しく判断できるような科学的方法論を開発できることが期待される。

 なお、この内容は「Scientific Reports」に掲載された。論文タイトルは、「Representation of the Numerosity “zero” in the Parietal Cortex of the Monkey」(サル頭頂葉における「ゼロ」の神経表現)。

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