東工大、遺伝子大量発現による細胞リプログラミングのメカニズムを解明

2015年5月19日 15:25

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実験操作の開始前に、2つある安定状態の片方の内部状態を持つ細胞のみからなる集団について、遺伝子の大量発現による単安定性への変化により、その内部状態が、基底の地形での「山」の位置へと遷移する。その後、大量発現の解除によって基底の地形へと戻ることで、細胞たちは「山」の部分にとどまることができない。このため、引き続く培養によって、1種類の内部状態(左図では緑)であった細胞群から、内部状態が異なる2種類の細胞群(左図では赤、緑)へと多様化する。(東京工業大学の発表資料より)

実験操作の開始前に、2つある安定状態の片方の内部状態を持つ細胞のみからなる集団について、遺伝子の大量発現による単安定性への変化により、その内部状態が、基底の地形での「山」の位置へと遷移する。その後、大量発現の解除によって基底の地形へと戻ることで、細胞たちは「山」の部分にとどまることができない。このため、引き続く培養によって、1種類の内部状態(左図では緑)であった細胞群から、内部状態が異なる2種類の細胞群(左図では赤、緑)へと多様化する。(東京工業大学の発表資料より)[写真拡大]

 東京工業大学の木賀大介准教授らは、数理モデルと培養実験を組み合わせる合成生物学の研究により、遺伝子大量発現による細胞リプログラミング(初期化)の原理を明らかにした。

 iPS細胞の作成過程などでは、遺伝子からタンパク質の生産を大量に行わせることが重要な実験操作となる。しかし、iPS細胞の作成における4遺伝子の役割など、遺伝子の大量発現がリプログラミングの過程において、どのようなメカニズムを誘起しているかということについては明らかになっていなかった。

 今回の研究では、2種類の遺伝子について、生産の相互抑制回路と大量発現回路とを組み合わせて、上位階層の回路を作成した。その結果、この生産速度の研究者による設定に応じて、上位階層の回路の安定性を単安定と相安定の間で切り替えられること、単安定となる状態の位置も設定できることが明らかになった。また、遺伝子からの生産速度の調整と解除を続けて行う実験操作によって、状態Aの細胞集団から状態AとBの細胞集団を、予測通りに作り出すことにも成功した。

 今後は、これまでの細胞リプログラミングの過程を今回の研究の観点から改めて検証することで、より効率の良い幹細胞の作成手順の確立に繋がると期待されている。

 なお、この内容は「ACS Synthetic Biology」に掲載された。

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