産総研、金属ナノ粒子触媒をグラフェン上に固定することに成功

2015年5月8日 15:27

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貴金属ナノ粒子触媒のグラフェン上への固定化法を示す図。(上)これまでの還元・析出法、(下)今回開発した手法(産総研の発表資料より)

貴金属ナノ粒子触媒のグラフェン上への固定化法を示す図。(上)これまでの還元・析出法、(下)今回開発した手法(産総研の発表資料より)[写真拡大]

 産業技術総合研究所の徐強上級主任研究員・Yao CHEN元産総研特別研究員らは、超微細な金属ナノ粒子の触媒を層状炭素材料であるグラフェン上に均一に固定化することに成功した。

 水素は、エネルギーを取り出した後、「水」だけになるクリーンなエネルギーであると考えられている。しかし、液化水素は冷却液化に大量のエネルギーを必要としさらに自然蒸発すること、水素吸蔵合金は重量当たりの水素密度が低いこと、高圧ガスボンベは安全上の課題があることなどの課題がある。一方、化学的水素貯蔵は、高密度の水素を化学結合によって水素化物という安定な形で安全に貯蔵できるため、大規模な水素輸送や小型の移動型機器への水素供給の有望な方法の一つとして期待されている。

 今回の研究では、還元の際に貴金属とともに析出した非貴金属を犠牲とすることにより、グラフェン上に超微細貴金属ナノ粒子を固定化する「非貴金属犠牲法」という手法を開発した。

 実際にグラフェン酸化物を水溶液に分散させ、触媒の前駆体であるテトラクロロパラジウム酸カリウム (II)(K2PdCl4)と硝酸銀(AgNO3)と同時に酢酸コバルト(Co(CH3COOH)2)を加えた。水素化ホウ素ナトリウム (NaBH4)による還元により、触媒となる貴金属であるパラジウム(Pd)と銀(Ag)からなるナノ粒子(Pd/Agナノ粒子)が析出する際に、ホウ酸コバルト(Co3(BO3)2)も同時にグラフェン上に析出して、Pd/Agナノ粒子の凝集が防がれた。その後、リン酸(H3PO4)を用いて、(Co3(BO3)2)を溶出させて除くと、超微細Pd/Agナノ粒子をグラフェン上に固定化できた。そして、触媒活性の指標である触媒回転頻度を調べたところ、50 ℃では2739h-1に達し、生成した水素からは、燃料電池の電極触媒の劣化原因となる一酸化炭素は検出されなかった。

 今後は、「非貴金属犠牲法」を用いて、グラフェン上に固定化した金属ナノ粒子触媒の開発を進め、ギ酸をはじめとする化学的水素貯蔵に用いる材料の高機能化、高効率化を図り、さらに環境やエネルギー技術に応用可能な多様な材料に展開できると期待されている。

 なお、この内容は「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。

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