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【コラム 山口利昭】「見える化」が進む会社法上の内部統制システムの基本方針
【4月18日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
5月1日の改正会社法の施行(適用開始)を見据えて、そろそろ「内部統制システム基本方針の一部見直し」に関する適時開示が増えてきましたね。このたびの会社法改正(施行規則の改正)では、「行為規範」として内部統制システムの基本方針に関する決議義務(構築義務ではありません)がかなり増えましたので、どこも対応に追われている時期かと思います。上場子会社ともなると、「早く親会社のほうで見直しを決めてもらわないと、うちでも決められないよ」と気をもんでおられる会社もあるのではないかと(まぁ、5月1日以降でも可及的速やかに対処すれば問題ないはずですが・・・)。
各社の見直し後の基本方針を一覧しておりますと、「ひな型」どおり、というものではなく、どこも自社で相当の議論をしたうえで決定している様子がうかがわれます。企業集団としての内部統制、監査役監査の実効性確保のための体制、監査役への報告体制など、かなりバラエティに富んでいますので、各社の管理能力を把握するためには内部統制システムの基本方針をご一読されることをお勧めいたします。
会社法の改正点以外にも、情報管理や保存に関する体制、損失の危険の管理に関する体制などにおいても、マイナンバー制度の施行や不正競争防止法における企業秘密保護の厳格化、BCPの徹底など社会の要請に対応して工夫を凝らしておられる会社も多いようです。コーポレートガバナンス・コードとの関連性を見据えてということかもしれませんが、職務の効率性を確保するための体制として、執行と監督の分離や取締役会の権限委譲に関する条項を付加している会社も増えていますね。
その中で、個人的に一番関心があるのは監査環境の整備です。各社が監査役制度をどれほど重視しているのか(軽視しているのか)、この「見直し」を読むとよくわかりますね。しかし、ここまで監査役さんの監査環境が整備されてきますと(たとえば内部監査部門への指揮命令権、監査に必要な費用はほぼ全面的に監査役の言うとおりに出します等)、今後、粉飾等の不祥事が発生した場合に、監査役の善管注意義務のレベルも上がる(任務懈怠が認められやすくなる)のではないでしょうか?またこの点は別のエントリーで取り上げたいと思います。
少し意外だったのが、システムの運用状況の把握をどのようにするのか、という点に関する記述があまり見受けられない点です。もちろん会社法施行規則では「内部統制システムの運用状況」は事業報告に記載することになっていますので、運用チェックの方法自体が内部統制の整備に関する決議義務の対象とされているわけではありません。しかし、どこの会社もこれだけ立派な体制整備をされているわけですから、その運用状況をどのように把握して、説明されるのか、たいへん関心があります。たとえば東鉄工業さんの内部統制システム基本方針では、第10項において運用状況をチェックする方法(取締役会において定期的に「検証」が行われるそうです。スゴイですね!)が決議されており、このような記載が参考になるのではないでしょうか。
コーポレートガバナンスが「仕組み」だけでなく「運用」にも光があたる時代となり、内部統制も同様に運用状況に関心が向くようになりました。整備された内部統制システムの運用は、どのようにチェックされ、誰が責任をもって評価するのか、そのあたりは事業報告では記載されないことになっていますので、運用状況の概要に関する記述の信用性を高めるためにも、基本方針の中で記述することも一考かと思います。【了】
山口利昭(やまぐち・としあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。
大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。
※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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