【コラム 山口利昭】社外役員がボタンを押した大塚家具経営権紛争

2015年3月5日 20:48

印刷

記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【3月5日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

 本日(3月5日)、いよいよ金融庁有識者会議においてコーポレートガバナンス・コード案が確定するものと思われます。なかでも独立社外取締役の実効性については懐疑的なご意見も多いようなので、どのような内容で確定するのかとても注目しています。

 ところで昨年12月12日に公表された「コーポレートガバナンス・コード原案」の原則4-8(独立社外取締役の有効な活用)補充原則4-8では、

 「独立社外取締役は、取締役会における議論に積極的に貢献するとの観点から、たとえば独立社外者のみを構成員とする会合を定期的に開催するなど、独立した客観的な立場に基づく情報交換・認識共有を図るべきである(独立社外者のみを構成員とする会合については、その構成員を独立社外取締役のみとすることや、これに独立社外監査役を加えることが考えられる)。」

 とされています。上記補充原則が、正式なコードにおいて維持されているかどうかはわかりませんが、昨日(3月4日)リリースされたジャーナリスト磯山氏の記事「大塚家具「ワンマン」会長に、社外役員6人が突き付けた「改善要求6ヵ条」を公開。父娘対立の裏に深刻なガバナンス欠如があった」によると、今回の大塚家具さんの壮絶な経営権争いの発端は同社の全社外取締役、全社外監査役連名による要望書にあったようです(もちろん記事が正確であることを条件に・・・ということですが。しかし取締役会の内幕がこのように記者の知るところとなる・・・というのもなんとなく不思議な気もします)。まさにガバナンス・コード案にあるような、独立社外役員の協調行動が大塚家具さんのガバナンスを変える大きな要因になった、ということのようですね。

 最近の東洋経済さん、ビジネスジャーナルさんの記事なども併せて参照してみますと、私が2月19日付けで書いたエントリー(大塚家具支配権争いにみる「社長解任の極意」)の予想とも一部合致するところが明らかになっています。昨年7月に現社長が解任された取締役会を取り仕切った方(そのときは解任議案に賛成5、反対1、棄権1 なお現社長の久美子氏は利害関係人として議決権は行使できない、というのが判例の立場です)が、今回の協調行動の直後に取締役を辞任されたのですね。その結果、今回は現社長の返り咲き(社長選任)議案について賛成4、反対3(なお選任議案については久美子氏は利害関係人とはみなされないので議決権を行使できます)というまことに微妙な僅差で議案が可決されたようです。まさに社外取締役がボードを握っていたことになります。

 また、私の以前のブログでは「経営に参加していない親族の意向なども流動的」と書きましたが、社内取締役のおひとり(創業者の三女の夫)が、1月23日の取締役会では久美子氏選任について賛成に回っていたのですね。創業者の方は「あんなに面倒をみてきたのになぜだ!」と会見で憤っておられたそうですが、これはよくあることです。ひょっとして、この1月23日の取締役会で現社長(久美子氏)の選任議案だけを上程して、創業者の社長、会長解職議案を通さなかったのは、この社内取締役さんが「解職議案を出さないことを条件に賛成する」といった意見を述べていたからかもしれません(これはあくまでも推測ですが)。

 そして議決権はないものの、社外監査役さん方の後押しが大きいと思います。もし上記記事が正確なものであれば、取締役の善管注意義務違反に関する意見なども出され、社外役員自身にも緊迫感が生まれてきたのかもしれません。先に述べたとおり、創業者側を支持されていた社外取締役の方は要望書提出後に辞任され、久美子氏解任議案が出された昨年の取締役会で棄権をされた社外取締役の方も、今回は選任議案に賛成されたのも、やはり社外監査役さん方の協調行動によるところが大きいのではないかと(ここはあくまでも私の推測ですが・・・)。社外役員6名が動くとなれば、いくらワンマン創業者といえどもガバナンスの変革を迫られる事態になる、ということがわかります。明治安田生命さんは社外取締役のみで構成される会議を創設されるそうですが、「社外役員会議」のようなものが社内で組織されるとなると、取締役会の雰囲気も変わりそうです。

 なお、これは創業者の肩を持つ・・・というわけではありませんが、昨年7月に私がブログで書いた見立てについては、まだ私はこだわりを捨てきれないでおります。経営の第一線から離れた創業者の元には、現経営者から疎外された派閥や取引先などから「助けてください」との声が多数寄せられます。現経営者のコンプライアンス上の問題なども、そっと社内から届けられることも多いと思います。疎外された従業員や取引先の思いをなんとかしなければ・・・という気持ちが湧いてくると、もう一回会社を立て直そうと奮い立つのが創業者ではないでしょうか。そのような「立て直し」は、一方からみれば「情け容赦ない人事粛清」に映ります。世間では親子の確執だといわれていますが、私はいったんリタイヤした創業者の気持ちを奮い立たせるのは、やはり社内力学であり、気に入らないブレーンの存在であり、これはどこの企業にもあると感じています。【了】

 山口利昭(やまぐち・としあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。
 大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。

■関連記事
【続報】大塚家具:創業者・大塚勝久氏の女婿の佐野春生氏が勝久氏の解任に賛成
【コラム 山口利昭】大塚家具支配権争いにみる「社長解任の極意」
【続報】大塚家具:創業者勝久氏長女の大塚久美子氏が社長に復帰

※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。

関連記事