【コラム 山口利昭】エンゲージメントの重要性は「株主との対話」だけではない

2015年2月12日 11:19

印刷

記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【2月12日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

 みずほフィナンシャルグループ、りそなホールディングスに続き、三菱UFJフィナンシャルグループも委員会設置会社(改正会社法では「指名委員会等設置会社」)に移行されるようです。また、1月終わりには2社だった「監査等委員会設置会社」への移行予定を表明した会社も、2月10日現在は5社(バイテック、アンリツ、石塚製菓、コスモ石油、ジャフコ)となり、今後もガバナンス改革を実践する会社が増えそうです。

 昨今のガバナンス改革では、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの適用のもと、「株主との責任ある対話」が求められていますが、対話が求められるのはなにも株主との間だけではありません。たとえば先の金融機関のガバナンスは「金融庁との建設的な対話によるガバナンス強化」が「平成26事業年度金融モニタリング基本方針」の中で明記されていますし、また日本証券取引所自主規制法人が昨年12月に公表した「エクイティファイナンスのプリンシプル」のはしがきにも、エクイティファイナンスの品質向上に向けて、プリンシプルを採用することで上場会社と証券取引所との対話が可能となる、と述べられています。

 要は、仕組みの善し悪しを評価するガバナンスから、運用の善し悪しを評価するガバナンスへと転換するのであれば、望ましい方向へと企業を動かす方策としてプリンシプル(原則主義)と対話(時間軸)を活用する、ということでしょうか。ルールへの適合は得意でも、プリンシプルへの適合はあまり得意でない日本企業にとって、望ましい方向性を関係者との対話の中で構築していこうといったところかと。したがって「スピード経営の実現と経営の透明性、説明責任のバランスを確保するために、監査等委員会設置会社に移行しました」として、システムを作っても、対話の目的はそのシステムが動くプロセスにあるわけですから、安心はできないということになります。

 プリンシプルはルールではないので、適合するかどうかは企業自身が決めることですが、「エンゲージメント」は対話双方の信頼関係を前提としますので、その信頼関係が破壊された場合には、「事実上の制裁」が待っている、ということになりそうです。では、この「信頼関係」の前提となるものは何か、さらに信頼関係が破壊された場合の「事実上の制裁」が一体何を意味するのか、ということを考えてみると、いろいろと面白い現象が浮かんできますが、それはまた別途検討していきたいと思います。【了】

 山口利昭(やまぐち・としあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。
 大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。

■関連記事
三菱東京UFJ銀行:大阪で通貨オプション取引の不払いをめぐり訴えを提起
三菱東京UFJ銀行、大阪で為替取引をめぐり訴訟
ホンダが下方修正、JR東海とエイベックスが上方修正、東映アニメの中間期決算は減益、日本ビジネスリースの保有株式を三菱東京UFJが譲渡=30日の注目銘柄

※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。

関連記事