【コラム 山口亮】民主党が救いようのない理由(3):最も重要な経済政策である労働市場改革について誰も主張できない不毛

2015年2月1日 18:24

印刷

記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【2月1日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

■労働市場改革は、最も重要な経済政策分野


 安倍政権が株価を非常に気にして政権運営している様子はうかがい知れるが、労働市場の問題をどの程度真剣に取り組めるかについては不透明だ。一票の格差の是正にも及び腰だから、難しいかもしれない。

 しかしながら、少なくとも、労働市場改革についても、「民主党よりは少なくともまし」というのは間違いないだろう。経済の専門家であれば、そのような結論にならざるを得ないし、有権者の実感もそれに近い。

■日本の労働市場の問題の根源は、判例理論による正社員保護


 日本の労働市場、いや日本社会全体の問題は、正社員を一方的な解雇から保護する法律や判例理論(「整理解雇の4要件」)が確立しているため、正社員の地位が、事実上既得権化しており、その結果として、若年層労働者の大半が非正規社員という、歪んだ雇用の現実が発生していることだ。

 経済の効率性を上げるためには、基本的には、資本と労働のどちらかの生産性を上げることしかない。この点、民主党には、労働市場を流動化し、経済を活性化させるために必要不可欠な労働市場改革について、支持基盤である自治労(全日本自治団体労働組合)と連合(日本労働組合総連合会)をはじめとする労働組合の意向を無視できないという決定的な構造がある。

 労働市場政策において、最も重要な視点は、日本経済全体での労働生産性を上げることである。しかし、民主党の支持基盤とする連合は、基本的には正社員を構成員とする産業別の労働組合などからなり、大企業の正社員を保護する政策を取る傾向にあることは、否定しがたい。正社員とは、雇用期間の定めのない「無期雇用」の社員のことである。

 連合の中でも、イデオロギー上の差異や、属している産業上の利害の差があって、必ずしも一枚岩とはいえないが、基本的には、正社員の雇用を保護しようとする傾向にある。正社員の既得権とは、終身雇用や年功賃金などをさすが、近年になって、事実上、非正規社員(パート・アルバイト、派遣社員、契約社員、嘱託)と正規社員の利害の対立が目立つようになってきていることは、明らかである。非正規社員の比率は、いまや全労働者の40%に迫る勢いだ。

 解雇規制が強いことにより、企業業績が悪化した場合などでも、判例法により経営者に不利な立証責任が求められているため、いざという場合に解雇のコストが不透明で予測可能性が低い正社員を新規に雇用するコストが高くなり、結果として新たに正社員として雇用される人が少なくなる結果になることは、実際の経験からは、もはや否定しがたい。

 特区をめぐって解雇規制の緩和についても議論されているようだが、正社員の解雇コストの予測可能性が低いことが、新規に雇用を行うことを経営側が躊躇させる主要因である。実際に、民主党政権時代に派遣労働を規制すると、より雇用が不安定なパートや契約社員が増えたのだ。

■細野氏の公約「正社員化促進法」は荒唐無稽


 こういった民主党の支持基盤である連合の利害に本質的に触れるような、日本の労働市場の問題に、いままで、元代表の小沢一郎氏や岡田克也代表だけでなく、長妻昭氏も、明確な答えをしたことはない。細野豪志氏ですら、「「正社員化促進法」(中小企業が正社員を新たに雇った場合の追加的社会保険料負担を半減)の制定、最低賃金アップ、労働規制緩和阻止、同一労働同一賃金の徹底等により、労働分配率向上を目指す。」と先の代表選で公約していた。

 労働市場政策の主眼は、労働生産性の向上にあるべきで、「正社員化促進法」で正社員が増えるとか、「労働規制緩和阻止」で正規労働の機会が増えると本当に考えているとすれば、もはや救いようがないだろう。

 竹中平蔵氏は、以前より、労働市場改革にあたって、「日本版オランダ革命」をやれと提言しているが、本来であれば、細野豪志氏や玉木雄一郎氏が、竹中平蔵氏や八代尚宏氏をアドバイザーにするなどして、民主党の若手政治家が、労働市場改革を主張し出せば、そのインパクトや後世の歴史家の評価は、小泉郵政改革の比ではなくなる見込みもあろうが、どう考えても期待薄だとしか言いようがない。【了】

 やまぐち・りょう/経済コラムニスト
 1976年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、現在、某投資会社でファンドマネージャー兼起業家として活躍中。さくらフィナンシャルニュースのコラムニスト。年間100万円以上を書籍代に消費するほど、読書が趣味。

■関連記事
【コラム 山口亮】民主党が救いようのない理由(3):最も重要な経済政策である労働市場改革について誰も主張できない不毛
【コラム 山口利昭】いよいよ監査等委員会設置会社に移行する上場会社が登場!
【速報】東京リーガルマインドが敗訴、元専任講師・小泉嘉孝司法書士を訴えた裁判

※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。

関連記事