【コラム 山口利昭】いよいよ監査等委員会設置会社に移行する上場会社が登場!

2015年1月31日 18:56

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【1月31日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

 日経ニュースの記事を読むまで知りませんでしたが、1月28日、29日と相次いで監査等委員会設置会社に移行することを取締役会で決議した企業が出てきたのですね(すでに適時開示もなされています)。いずれも監査役会設置会社からの移行だと思いますが、「どこが移行第1号になるのか?」と私の周辺では話題になっておりました。

 巷(ちまた)では私がネガティブキャンペーンを張っているものと噂されておりますが(笑)、いえいえ、ほんとに監査等委員会設置会社の趣旨を理解されたうえで「ガバナンス強化」を社長が決心されておられる会社であれば、素晴らしい決断だと思いますし、決して「やめたほうがいい」とは申し上げません。そもそもコーポレートガバナンスはもはや「仕組み」ではなく「運用」が評価される時代です。うまく運用されれば取締役会の権限の多くを執行者に委譲してスピード経営を実現し、企業価値向上に資する機関形態だと思います。

 ただ、監査等委員である社外取締役(2名以上)の方々にとっては、これまで経験してこなかった未知の領域の職務が待っている・・・ということがなかなか興味深いところです。

 監査等委員である取締役さんは、これまでの監査役さんと同じような「監査職務」(正確には監査権行使への関与)、そして取締役なので、取締役会構成員としての「監督職務」、そしてもうひとつ「監査等職務」をこなすことになります。監査等委員である取締役さんは、直接株主総会から選任されますので、指名委員会等設置会社の監査委員の方々よりも独立性が強く、またかなり責任も異なります。この「監査等職務」というのが、まさに会社法改正のグレーゾーンでありまして、社長さん達の人事や報酬について監査等委員会には意見陳述権が付与されています(ほかにも利益相反取引に対する承諾権限など特有のものがありますが、取締役会構成員としての「承諾」とはどう区別して承諾権を行使するのか、いまだによくわかりません・・・)。この指名・報酬に関する意見陳述権というのが曲者(くせもの)でして、組織的権限行使なので各委員は意見陳述権行使に「関与」することになるわけですが「権利なのだから、別に意見がなければ何も言わなくてもいいのではないか?言わないことで責任を問われることはないのでは?」とも思えます。

 しかし著名な会社法学者の先生方のご意見をみると、そんな生易しいものではないようです。たとえば東大のT先生は、監査等委員会の意見陳述権の法的性格として「条文上は「意見を述べることができる」とあるので(改正法361条6項)、必ず意見を述べなければならないというわけではない。しかし、条文上、意見決定は監査等委員会の「職務」と明記されているので(法399条の2、3項3号)、この「職務」を強く読めば義務のようにも思える」(旬刊商事法務2045号18頁)と述べておられます。

 また法制審議会会社法制部会長のI先生も、「意見陳述権というのは、与えられた権限である以上、適切に行使する義務もある。意見がない、というのは本来ありえないはずであり、特に意見を述べないというのは、取締役が提案した人事・報酬議案について異論がないということ。株主総会で『そこはどう考えているのか』と株主から質問があれば、監査等委員はこれに対する説明義務がある。」と述べられ、同じシンポにおいて会社法改正に携わった法務省の方も「取締役会の議論において、監査等委員である社外取締役らが人事・報酬に関する協議の中心的役割を果たすことが期待されている、という点に大きな意味があります」と語っておられます(旬刊商事法務2040号22頁以下ご参照)。

 こういったご意見、ご議論に触れるにつれ、私自身「監査等委員という職務はタダモノではないぞ・・・ぶるぶる」といった気持ちになってきましたので、この機関設計は社長さんだけでなく、監査等委員である取締役に就任する方々にも並々ならぬ決意が必要なのではないか、と考えるに至ったわけです。いえ、再度申し上げますが、その決意をもって機関移行を行うのであれば(もちろん法的には株主さんが決めることですが)、これはまさにガバナンス強化への熱意が伝わってくるものであり、機関投資家からも、また議決権行使助言会社からも好感度アップとなるのではないかと思います(たしかISSさんも推奨されていましたよね)。

 そして、もし(仮にですよ!)、「監査等委員会設置会社って、社外役員が節約できる上、常勤が要らないとなれば経済メリット十分。そのうえ任期2年で役員の肩たたきもせずに人事に柔軟に対応できる。おまけに独任制と言う恐ろしい制度が廃され、コンプラおたくの原理主義者を排除できる。これに乗らない手はないよね!」と思って機関移行される社長さんがいらっしゃるとしたら、正直にそう開示してくださいね(笑)。ホンネで株主と建設的に語り合うことがまさにコーポレートガバナンス・コードのいう「株主との目的ある対話」なのですから。【了】

 山口利昭(やまぐち・としあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。
 大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。

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