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【コラム 山口利昭】市場の番人・公益の番人論2015-その3 監査法人のガバナンスコード
【1月29日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
市場の番人・公益の番人シリーズの第3弾はまさに「市場の番人」たる監査法人です。本日(1月25日)の日経ヴェリタスではCPAAOB(公認会計士・監査審査会)のS事務局長のインタビュー記事が掲載されており、英国で2010年に策定された監査法人のガバナンスコードに触れ、「日本で直ちに作るかどうかは議論があるが、我々はその方向で動き始めている」と発言されているのが印象的でした。
ところで「会計監査人の不正発見機能が上がっているかといえば、十分でないと考えている」とのご発言もありますが、これは結構、評価はむずかしいのではないかと個人的には思います。昨年、愛知高速交通事件の名古屋高裁判決が出て、同社の会計監査人の任務懈怠(善管注意義務違反)が認められていますが(高裁判決は最高裁HPで全文閲覧できます)、最近は会計監査人の法的責任がチラホラと認められる事件も出てきました。
私も会計監査人さんが不正発見機能を発揮していただきたいとは思うのですが、もし発見したとすると、今のご時世、発見した会計不正事件を早期に見抜けなかった会計監査人の法的責任が問われる可能性があります。したがって、たとえ社員が粉飾を(会計監査人に)内部告発したとしても、会計監査人には会社側に自発的な修正を求めて穏便に済ませてしまおう・・・と考える動機が生じるのではないでしょうか。だとすれば、会計監査人さんの不正発見機能が発揮される事例というものはこれからも増えるかどうかは疑問です。
もちろん過年度まで修正すれば、真実の過去情報を開示したことになりますので大きな問題とは言えないようにも思えますが、その会計不正がミスだったのか、故意によるものなのか、従業員マターだったのか経営者関与によるものだったのか、投資家は知りたいところですし、これがまさに全社的内部統制における重大な不備の判断につながるのではないでしょうか。会計監査人は適正意見を出すかどうか、ということが主たる業務ですが、193条の3を行使することもできますし、会社側と意見の相違があれば契約終了時に意見表明ができます。リソー教育さんの事件のときも、そのあたりが問題視されていたように記憶しています。
たとえ過去の有価証券報告書は真実を伝えたものに修正されたとしても、その会社の内部統制の欠陥はあまり問題とされません(もちろん形式的には内部統制報告書の訂正が行われますが、統制環境に問題あり、といった理由が会社側から示されることはあまり見受けられません)。結局、再び重大な会計不正を起こす可能性があるかどうか、その会社の期待価値は投資家には伝えられないのです。財務報告にはウソは書いていませんが、取引先には虚偽の数字を出している企業なども、私は内部統制に重大な不備を抱えているものと評価します。そういった会社の粉飾危険性を監査法人があぶりだすところに、これからの監査法人さんの「市場の番人」としての価値があるのではないかと思います。
日本の監査法人による監査を受けているからこそ世界から高い評価を受ける・・・と言われるためにも、監査法人さんの品質管理やガバナンスの向上は、「市場の番人」としてふさわしいレベルに到達することを期待しています。【了】
山口利昭(やまぐち・としあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。
大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。
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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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