【コラム 山口利昭】企業も肝に銘じておきたい-法の不知はこれを罰する

2015年1月20日 22:46

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【1月20日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

 19日の朝日新聞夕刊(関西版)に掲載されていますが、無許可で中古車オークションを開催したことが古物営業法違反にあたるとして、ダイハツ工業系列のディーラー会社および同社社長さんらが書類送検されたそうです。そういえば2011年にはゲオさん、TSUTAYAさん等で盗品買取事件が続発し、2012年にはソフトバンクさんがiphoneの下取りキャンペーンを実施しようとしたところ、警視庁より「古物営業法違反のおそれあり」と警告を受け、下取りを実施する会社を変更したことがありました。古物営業に関する企業規制にはわかりづらいところがありますね。

 このディーラーの社長さんは「古物営業の許可を持っていたので、市場主(いちばぬし)としての経営については別の許可が必要だとは思わなかった」と供述されているそうで、7年もの間、無許可で古物市場主を「業」として継続していたようです(今回はオークション会場に警察が立入り調査を行ったようなので、事前に告発があったのでしょうね)。

 そもそも(営業市場主の許可という)法律の存在を知らなかったのだから、故意が必要となる古物営業法違反の罪は成立しないのではないか?とお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、「法律の不知はこれを罰する」(刑法38条3項)ということなので犯罪はもちろん成立します。たしかに(犯罪が成立しない)事実の錯誤なのか、法律の錯誤なのか微妙な場合もありますが、本件では3回のオークション開催を容疑事実として、さらに手数料収入の事実も認定されているので、古物市場を「経営」していたことは間違いなく、単純に「市場主としての許可を得ていない」ということだけの錯誤のようなので、犯罪成立には問題ないと思われます。

 大手自動車メーカーさんの系列ということなので、まじめに経営をされておられる会社だと思いますが、古物営業についての許可を得ている、ということからコンプライアンス上の問題意識は思い浮かばなかったものと思います。また「前任者の時代からやっているから」ということだけでリスク感覚が乏しかったのではないかと推測します。おそらく現場社員の方の中には、無許可ではないか?といった疑問を抱いていた方もいらっしゃるのかもしれませんが、そのような疑問も「今まで7年間も大阪府警から何も指摘されていないんだから、これって形骸化した法律なんだろう」といった認識を持たれていたのかもしれません。

 ただ、たしかにペナルティの執行が緩い法律もあるかもしれませんが、本件のように執行されてしまえば大きな報道につながります。これがもし、この無許可市場で大規模な盗品売買が行われたとすれば、市場を無許可で開催していた企業は、さらに大きな社会的批判を浴びることになります。このような「ペナルティの執行が緩い」と思われている業法は多くの業界に存在します。だからといって業法違反を放置していると「法の不知はこれを罰する」ということで、経営者の犯罪だけでなく法人の犯罪につながります。

 遵法経営に真摯に取り組む企業であることを全社的に浸透させることが経営者の役割であり、また、たとえ法の執行が緩い、罰則が形骸化している、といった業法が存在するとしても、社会の変化によって厳格に執行されるようになり、社会から厳しい目で批判されてしまう「リスク顕在化の可能性」を理解することは管理部門の役割だと考えます。法令を理解するだけでなく、法令を取り巻く社会環境の変化にも目を配ることがコンプライアンス経営の要諦です。

 このたびのディーラーさんは、事実関係の調査と再発防止のために外部有識者委員会を設置されるそうですが、組織の構造的欠陥にまで踏み込んだ原因究明を期待しています。【了】

 山口利昭(やまぐち・としあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。
 大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。

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