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【黒澤善行の永田町ウォッチ】安倍路線が反映された来年度予算案も閣議決定
【1月16日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
政府は、14日の臨時閣議で来年度予算案を決定した。一般会計総額は96.34兆円(今年度当初比0.5%増)と、2年連続で過去最大となった。
■財政健全化目標、予算案段階では達成へ
来年度の歳入については、消費税率10%への引き上げ延期するものの、消費税率8%への引き上げや、企業業績の改善による所得税の税収アップ(16.44兆円、今年度当初比11.2%増)などにより、約54.53兆円(今年度当初比9.0%増)の税収を見込んでいる。日本銀行納付金など税外収入4.95兆円と合わせた歳入総額は、59.48兆円としている。
政府は、14日の閣議で、昨年12年30日にまとめた与党の税制改正大綱を踏襲した2015年度の税制改正大綱を決定した。また、税収見積もりの前提となる2015年度の経済成長率について、物価変動の影響を除いた実質成長率を1.5%、物価変動を反映した名目で2.7%とする政府経済見通しを閣議了解している。2014年4月の消費税率8%への引き上げによって落ち込んだ個人消費や設備投資が持ち直すなど、民間需要主導の景気回復を見込む。これにより、法人税の税収のみならず、給与アップによる所得税収増も期待できるとしている。
歳入不足を補う新規国債発行額については、約36.86兆円(赤字国債:30.86兆円、建設国債:6兆円)に抑えられた。これにより、歳入に占める国債発行額の割合を示す公債依存度は、38.3%(4.7ポイント減)に低下する。
また、新規国債発行をせずに政策経費(国・地方)をどれだけ賄えているかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス)赤字の対GDP比は3.3%となった。予算案段階の試算では、2015年度までにプライマリーバランス赤字の対GDP比を2010年度実績(6.6%)から半減するとの財政健全化目標を達成できる見通しとなっている。
ただ、依然として予算総額の4割弱を国債に依存する財政状況が続く。また、消費税率10%への引き上げの先送りなどにより、2020年度までにプライマリーバランスを黒字化させる財政健全化目標の達成は困難になっている。麻生財務大臣は、極めて難しい状況にあるとの認識を改めて示したうえで、「徹底した歳出面の改革が必要」(14日の閣議後の記者会見)と述べた。政府は、新たな財政健全化計画を今年の夏までに取りまとめる予定だという。
■社会保障費は過去最大
歳出をみると、政策経費72.89兆円(今年度当初比0.4%増)のうち最も占めているのは、社会保障費31.53兆円(今年度当初比3.3%増)だ。高齢化の進展に伴う自然増(8300億円)を、介護報酬改定や生活保護の支給基準の見直しなどで1700億円分を圧縮した。ただ、子育て世帯臨時特例給付金を減額のうえ支給を継続することや、子ども・子育て支援の拡充の一部実施などが盛り込まれたことから、総額では過去最大だった2014年度当初を1.36兆円上回り、過去最大となった。
焦点となっていた9年ぶりの介護報酬改定をめぐっては、介護サービスの公定価格「介護報酬」を3%程度の引き下げを求める財務省と、引き下げを最小限にしたい厚生労働省とのギリギリの攻防が続けられた。
麻生財務大臣と塩崎厚生労働大臣による最終折衝にもつれこみ、政治決着を図ることとなった。これにより、膨らむ介護費用を抑制するため、介護報酬を全体で2.27%引き下げる一方、障害福祉・介護職員の人手不足を解消するため、平均給与が月1.2万円増額となるよう別枠で確保(人件費に関する報酬はプラス1.65%)することなどが盛り込まれることとなった。
■安倍路線が反映された予算案に
来年度予算案は、「地方創生」「女性の活躍推進」「国土強靭化」「外交・防衛予算の充実」などを掲げており、安倍内閣の政策路線が色濃く反映された内容となった。
地方創生関連では、総合戦略に係わる分として7225億円を充てたほか、1兆円の予算枠(まち・ひと・しごと創生事業費)を新たに計上した。また、地方税収や交付税などを原資に自治体が自由に使える地方一般財源の総額は、過去最高の61.5兆円となった。地方への予算配分を手厚くし、地方創生を後押しする。
女性の活躍推進関連では、今年度当初比1000億円が増額され(9000億円)、政府が昨年10月に政府が策定した政策パッケージの一部を反映したものとなった。保育所運営のための施設型給付や、保育所の整備・改修、小規模施設に対する地域型保育給付など待機児童解消に7023億円を配分した。また、女性の貧困対策(生活困窮者の相談支援、就労支援を行う自立支援など)に400億円、正社員への昇格を希望する女性らを支援する「正社員実現加速プロジェクト」に321億円などを計上している。
公共事業費は5.97兆円で、今年度とほぼ横ばいとなった。公共事業費では、自治体によるインフラの老朽化対策や地震津波対策などに特化して財政支援する「防災・安全交付金」を増額(1.09兆円で1.0%増)のうえ、土砂災害対策として都道府県が危険箇所の地形などを調べる基礎調査の実施に優先配分する特別枠を新設(70億円)した。このほか、整備新幹線の延伸区間の前倒し開業決定で国費の追加費用なども盛り込んだ。
外交予算では、首脳外交関連経費95.4億円のほか、日本の国連安全保障理事会常任理事国入りに向けた安保理改革関連費・非常任理事国選挙(今年10月)対策費として871.8億円、外交実施体制の拡充に62.9億円などを盛り込んだ。
防衛関係費(在日米軍再編経費含む)は、海洋進出を活発化させる中国への対応を念頭に防衛力強化を図るべく、尖閣諸島などの領海警備・警戒監視体制の強化、島嶼防衛の強化・装備品調達などを盛り込んで、過去最大の4.98兆円(今年度比2%増)となった。
■暫定予算案の編成検討へ
安倍総理は、来年度予算案について「元気で豊かな地方の創生、子育て支援など社会保障の充実に最大限取り組むとともに、国債発行額を4.4兆円減額し、6年ぶりに40兆円を切ることができた。経済再生、財政健全化を同時に達成するために資する予算になった」と強調した。政府は、補正予算案と来年度予算案、消費税率引き上げの先送りなどを盛り込んだ税制改正関連法案を1月26日召集予定の通常国会に提出し、早期成立をめざす。そのうえで、切れ目のない予算執行を着実に進めていく方針だ。
ただ、通常国会では、補正予算を2月中旬までに成立させた後、来年度予算案が審議入りとなる。通常、予算審議には衆参両院で1カ月半〜2カ月程度はかかることから、来年度予算の年度内成立は微妙な状況だ。与党は、地方統一選が控えているだけに、なるべく丁寧な国会運営に心がけていく構えだが、野党の追及で予算委員会での審議が紛糾すれば、成立そのものが4月にずれ込むこともありうる。
このことから、政府・与党は、統一地方選前半戦の投票日となる4月12日までに来年度予算の成立をめざす方針だ。財務省は、来年度予算が年度内成立しなかった場合に備え、10日程度の暫定予算案の編成も検討していくという。【了】
黒澤善行(くろさわ・よしゆき)/愛知県春日井市生まれ。立命館大学政策科学部卒業、立命館大学政策科学研究科博士前期課程修了。毎日新聞社「週刊エコノミスト」記者、衆議院議員政策スタッフ、シンクタンク2005・日本(自民党系)研究員などを経て、従来の霞が関の機能を代替できる政策コンサル産業の成立を目指す株式会社政策工房の主任研究員に就任。主著に『できる総理大臣のつくり方』(春日出版、共編著)、『ニッポンの変え方おしえます―はじめての立法レッスン』(春秋社)がある。政策工房Public Policy Review(http://seisaku-koubou.blog.jp)より、著者の許可を得て転載
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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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