【コラム 山口利昭】不祥事・重大事故の公表について企業が留意すべき3つの視点

2015年1月14日 07:01

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【1月14日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

 昨日のエントリーに対しては、たくさんのアクセスをいただき、ありがとうございました。事務所のほうへ4社ほど、メディアの方々より電話取材の申込みがありましたが、あいにく出張続きのため、取材はなかなかお受けできないのが現状です。そこで、個人的な意見ではありますが、いま問題となっている食品事故に限定して、不祥事・重大事故発生の事実を公表する際の留意点などを、昨日の続編として書かせていただきます(不祥事公表における留意点は、業界や事業規模、上場非上場の有無等、企業ごとにポイントが異なりますので、すべての企業に妥当するとまでは言えません)。なお、拙著「不正リスク管理・有事対応」(有斐閣)でも、このあたりは「経営者の有事の知恵」として詳細に述べておりますので、詳しい解説はそちらの本をご参照ください。

■1「消費者のために」ではなく「消費者の視点で」公表の要否を考えよ


 1月7日、ベビーフードに虫が混入していたと報告を受けていた和光堂さんは、「商品の回収はしない」とコメントされていましたが、親会社の意向により一転「すべて回収する」と企業対応を変えています。「過剰反応ではないか」との声も聞かれますが、企業グループのレピュテーションリスクに敏感な親会社としての対応は、これが現実なのです。日本の企業はステークホルダーの利益保護には非常に熱心なので、消費者のために安全を最優先に考えることは誠実な企業として当然であり、それにふさわしい品質管理がなされています。

 しかし、だからといって100パーセントの商品の安全は絶対に確保できないのであり、それは内部者不正事件などをみても明らかです。だとすれば、商品の安全に疑惑が生じた場合、それは企業だけで解決するのではなく、ステークホルダーと一緒に解決する姿勢を示すことが求められます。消費者との関係でみれば、どのような食品事故が発生したのかをHP等で速やかに開示し、同様の事故が別の消費者に発生していないかどうか確認し、また事故に対する注意喚起を行うことが大切です。ときどき「同様の事故は聞いていないので、固有の問題として個別対応で済ませた」という企業広報を聞きますが、これは「事故があれば消費者のほうから何か言ってくるだろう」という、かなり上から目線での対応であり、消費者に対するコミットメントを感じることができません。

 異物混入は、企業にとっては何十万食のうちの1食です。しかも第三者による悪意による混入かもしれません。しかし消費者にとってはその1食が企業と結び付くすべてです。「消費者のための安全」と「消費者の視線からみた安心」、法令違反が問われない状況において、そのいずれに重きを置くかは企業自身が自己責任で判断すべきです。

■2 被害者からの連絡にはファーストコンタクトで決める


 これは拙著「不正リスク管理・・・」の中でも述べているところですが、今朝のニュースなどで、実際にマクドナルドや和光堂の異物混入を会社に申出た方のインタビューを聞いていると、「こんなものが入っているから気を付けて・・と、他の購入者にも教えたかった」という真摯な気持ちから会社に連絡をしたことが窺えました。異物混入の事実を会社側に申し出る消費者の気持ちを逆なでするような企業側の対応が、行政当局に訴える、SNSで会社側の対応を非難する、といった消費者の行動を惹起することも多いのではないでしょうか。つまり、被害を訴える消費者とのファーストコンタクトがとても大切です。

 1で述べたこととも重複しますが、私は被害を受けた消費者とともに問題を解決する姿勢をきちんと示すべきだと思います。昨年発生したアクリフーズ社の農薬混入事件の第三者委員会報告書をご一読いただければおわかりになると思いますが、決して犯人とは結びつかないものの、あの農薬混入事件までに数件の異物混入事件が発生していました。その段階で、もし会社側が有事意識を高めていたとすれば、あの農薬混入事件の発生可能性は低下していたかもしれません(あくまでも推測の域を超えませんが)。今の時代、消費者がSNSを活用する等によって、自ら事故情報を広めることが容易ですが、逆に悪意による告発は偽計業務妨害や威力業務妨害等によって容易に摘発される時代でもあります(昨日、奈良県のコンビニで釣銭を多く渡されて黙って受け取った男性が逮捕されましたが、以前ではなかなか立件できなかったと思います)。消費者による情報提供には真摯に耳を傾けるほうが会社にとっては得策だと思います。

■3 しかるべき部署に情報を集約する


 全国展開をされている外食さんだとかなり難しいかもしれませんが、商品に対するクレームを、本部に一極集中させることができるかどうか、これが重要なポイントではないかと。たとえば和光堂さんのケースでは、7日の時点で「ほかに同様の異物混入の情報は入っていない」と公表していましたが、8日の夜、新たに別の商品で虫混入の事実(昨年夏の事件)が判明したと公表しています。店舗ごとですと、なかなか対応にばらつきが生じ、マクドナルドさんのように、大切な異物さえ紛失してしまう、という事態にも発展してしまいます。また、「異物混入があった」ということは、現場社員にとってはミスにつながるものとして、誰も報告したがらないはずです。しかし、重大な食品事故が発生して会見を開くや否や、同じような事故情報が後から本部の耳に入る、ということになると、「事故隠し」という二次不祥事を発生させかねません。

 こういったことは企業風土に関わる問題であり、一朝一夕にリスク管理として体制が構築できるわけではありませんので、愚直に地道にふだんから取り組む必要があります。昨日のエントリーでも書きましたが、「当社の製品は100%安全だと確信している」と思えば思うほど、「これまで一回も事故など聞いたことがない」と誇りを持てば持つほど、クレームは「お客様のほうに問題があるのでは」というバイアスにとらわれてしまいます。昨日のエントリーで「ひろさん」がコメントを寄せておられるとおり、安全管理にはどこかで例外を許容する部分もあるのではないでしょうか。誰かのミスとかではなく、そういったブラックボックスが存在しうることを許容してこそ、「事故は当社でも発生する」という思想のもとでのリスク管理も可能だと思います。【了】

 山口利昭(やまぐち・としあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。
 大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。

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