【コラム 山本洋一】ふるさと納税拡充、で本当にいいのか

2014年12月28日 22:41

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【12月28日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

 政府・与党が来年度から、故郷の自治体などに実質的に納税できる「ふるさと納税」制度を拡充するという。適用上限額を2倍にするほか、手続きも簡素化する方向。ただ、自治体のプレゼント合戦という問題を放置したままでは、税収の無駄遣いに終わる可能性もある。

■ 来年度から制度拡充、減税2倍に


  ふるさと納税とは実質的に、好きな自治体に納税することのできる制度。具体的には特定の自治体に寄付すると、2000円を超える部分が地方住民税や所得税から控除される仕組みだ。「ふるさと」と銘打っているが、生まれ育った地域でなくても構わない。
 
  例えば名古屋市に住んでいる私が、かつて勤務した大阪市に1万円納税したいと思った場合。私は大阪市に1万円寄付し、翌年の確定申告でそれを報告する。すると本来、国と名古屋市に納めるはずだった所得税と住民税の額が8000円減額となり、後日、還付金として戻ってくる。
 
  税金が控除される額には上限が決まっており、年収や家族構成によって異なる。例えば年収500万円、共働きで大学生の子どもが一人いる家庭では2万7000円。具体的には以下の表のように設定されている。

 http://www.soumu.go.jp/main_content/000254926.pdf

  このふるさと納税制度を巡り、日本経済新聞は「ふるさと納税制度を拡充、減税額を2倍に」と報じた。先ほど紹介した税額控除の上限を2倍に引き上げるほか、確定申告しなくても自動的に居住地の住民税が軽減されるようにするという。菅義偉官房長官が第一次安倍内閣の総務相時代に提案した制度だけに、看板政策である「地方創生」の目玉にしたい考えだ。

  納税者の納得感を高めるためにも、納税先を選べるという制度はあっていい。しかし、自治体による「プレゼント合戦」が過熱し、本来の趣旨とかけ離れつつあることに留意する必要がある。

■ 1万円寄付で5000円のステーキ

 
  北海道の十勝地方北部に位置する上士幌町。農業や畜産が盛んなこの町のふるさと納税「特典」が今、全国的に人気を集めている。1万円寄付すると、牛ステーキや鹿肉ジンギスカン、はちみつなどの中から好きな商品がもらえるのだ。あまりの人気に、品切れ商品も相次いでいる。
 
  例えばこの町に1万円寄付し、特典として十勝ハーブ牛のロースステーキ(400グラム)をもらったとしよう。ネットで調べたところ、ステーキの価格は5000円。先ほど紹介したように2000円を超えた部分、8000円が税額控除の対象になり、後で還付されるので、実質的には2000円の負担で、5000円のステーキを購入できたというわけだ。差し引き3000円の「得」になる。
 
  ネット上を探せば同様のお得な特典はたくさんある。自治体が寄付を集めるために、競い合って豪華な地元産品をプレゼントしているからだ。中には「宿泊券」のように、換金できそうな特典もある。上限額が決められているとはいえ、悪用すれば節税策として使うことだってできるだろう。
 
  自治体にとってはいいことしかない。上士幌町からすれば1万円の税収が増えたことになるため、5000円分の特典を送ったとしても差し引き5000円分の「得」になる。しかも、地元産品の販売促進やPRになる。自治体側からすれば制度の拡充は大歓迎、もっとやってくれというのは当然だ。
 
  しかし、誰もが得をする制度などない。この場合、上士幌町の税収が実質的に5000円増え、納税者が3000円得した反面、国と納税者の住む自治体は8000円を返す必要が出てくる。つまり税収が8000円減るのである。
 
  国家全体で考えると、上士幌町が5000円の増収になり、国と納税者の住む自治体の税収が8000円減れば差し引き3000円の損。3000円がどこに行ったかというと納税者である。減収分3000円の原資は国民や都市部の住人が支払う税金。1万円分の税金の納入先を変更するだけのために、それだけのコストをかけるべきだろうか。
 
  自治体の中には特典の豪華さではなく、政策のアイデアで競うところもある。広島県神石高原町は寄付額の5%を町の事業に使い、残りの95%を犬の殺処分を減らすNPOの活動に充てるという企画を打ち出した。ただ、真面目に工夫を凝らしている自治体は残念ながら少数派だ。
 
  総務省は一昨年、各自治体に過度な特典の贈呈を自重するよう求めたが、現在もプレゼント合戦は続いている。こうした状態を放置したまま、上限額を2倍に引き上げれば、一部の有権者や自治体へのバラマキを増やすだけ。抜本的な地域活性化につながるとは考えにくい。
 
  安倍政権は本気で財政再建に取り組むつもりであれば、もっと効果的、効率的な制度設計を考えるべきではないだろうか。【了】

 山本洋一(やまもと・よういち)
 1978年名古屋市生まれ。愛知県立旭丘高校、慶應義塾大学経済学部卒業。 2004年に日本経済新聞社に記者として入社。2012年に退社し、衆議院議員公設秘書(国会担当)を経て、現在、従来の霞が関の機能を代替できる政策コンサル産業の成立を目指す株式会社政策工房の客員研究員。政策工房Public Policy Review(http://seisaku-koubou.blog.jp)より、著者の許可を得て転載。

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