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アパレル企業のWeb責任者が見る「2018年。3年後のWeb戦略」【前半】
アパレル企業のWeb責任者が見る「2018年。3年後のWeb戦略」【前半】―アーバンリサーチ事業本部WEB事業部シニアマネージャー 坂本満広氏
スマートフォンの普及によりオムニチャネル化が加速した昨今。次のWebトレンドはすぐにやってくる。ウェアラブル、IoT、ビッグデータなど、リアルとバーチャルの融合が大きなうねりとなり迫ってきている。1年後の動向すら掴みづらい中で、予言にも近い"3年後のWebのかたち"について、アーバンリサーチオンラインストアを立ち上げたWEB事業部シニアマネージャーの坂本満広氏にきいた。
Web事業部が大阪にあることもあり、東京周辺のファッションブランドのWeb担当者界隈ではベールに隠されたような雰囲気を醸し出すアーバンリサーチ。「ウェアラブルクロージング」や、「教えて!びい子」などの先進的なテクノロジーを使った取り組み、俳優の古田新太氏がハイヒールを履きこなして怪しくポーズを決めるイメージビジュアルが話題の「SENSE OF PLACE by URBAN RESEARCH」など、既存の枠に囚われない彼らの謎のベールの中には、「柔軟な企画力」と「内製化による強固な基盤」が隠されていた。
動機はシンプル。「ネットで服を出せば、売れるんちゃうか?」
―まずは今期のアーバンリサ-チオンラインストア (以下:URオンラインストア)の実績を教えていただけないでしょうか?
URオンラインストアの売上は前期70億円でしたが、今期は120%ぐらいで超えていけることができそうです。ただ店舗出店が急速に伸びて、会社全体の売り上げに対して、EC比率が30%から20%に下がってきているんですよ。
―店舗、URオンラインストアとも相変わらず好調ですね。
おかげさまで、私が1人でやっていた頃からは想像もつかないくらい伸びました(笑)。2004年にオンラインストアを立ち上げたのですが、最初は「インターネットで服を出せば、売れるんちゃうか」って言う単純な動機ではじめたんですよ(笑)。
―シンプルな動機ですね(笑)。でもアパレル業界って普通は逆じゃないですか。「Webなんかじゃ服は売れない」っていう声が大きかったはずですが。
何でしょうかね...不思議と迷いはなかったですね。とっても単純に考えていました。「Webで売れなくても、Webを見た後にお店に来てくれるんちゃうか」とも考えてましたしね。
―最初からWebルーミングの思考を持っていたんですね。さすがです。それにしても2004年ってスタートが早かったですね。
専務の竹村(専務取締役の竹村圭祐氏)が昔からITやテクノロジーに明るかったということもありましたが、URオンラインストアは経営メンバーで決めたことなんで、会社から全面バックアップしてもらいましたし、僕がもともとIT側ではなく営業の人間で、営業サイドの事業も分かるってことで、社内のバランスは比較的取れたと思います。
―店舗とWebの連携が進んでいる御社ですが、最初から店舗とWebの垣根は低かったんですか?
いやいやいや、ありましたよ。本社の人間には徐々に理解してもらいましたが、店は違うわけですよね。そりゃそうですよね、店の成績があるわけですから。
最初はWebへの抵抗感はありましたよ。最初は店舗在庫をネットで販売していましたしね。ネットで受けた注文をデータにして、紙に印刷して、全店にFAXを流して、各店舗に在庫をチェックしてもらうわけです。
チェックが全部終わったら、今度は車で全店を回って集めに行くわけですよ。そして戻ってきて、また注文通りに仕分けして、ラッピングして、送り状も出す。これをね、1人で1年半ぐらいやっていましたね。
それから3~5人ぐらいの組織にして、やっと本社にWeb在庫を持ちまして。そこから売り上げが10億円規模になるまで、5年ぐらいは本社内を倉庫にしていましたよ。
セール時期は本社内が洋服だらけになって、各店舗からヘルプメンバーがたくさん来てくれました。
売上10億円。80人のWebチームへ。
―売上10億円以降はどのような体制になったのですか?
その頃から、経験豊かな人物を増やしました。例えばWebデザイナー、広告代理店のマーケッター、クリエイター、プロのカメラマンなどを増やし、社内に撮影スタジオを作ったりして、自分たちでやっていける基盤を作っていきました。
Webチームが80人ぐらいいます。他には、もともと同じWebチームでしたが、独立したクリエイティブチーム、そして会員システムのUR CLUBチームがあります。
―ここから"内製化の道"が進んでいくわけですね。
僕らの考え方は、「できないから外の会社さんにお願いする」のではなく、「外でやってもらった方が効率的に進む」場合のみやっていくという方針です。それ以外は基本は自分たちでやる。当然失敗も多くなりますが、何が良いのか悪いのかを体験でき、ノウハウが貯まっていきます。
例えば、オンラインストアの商品写真ですが、最初の頃はどこのファッションECサイトも写真にはブランドの世界感がまったく出ていなかった。単純に商品を撮影しているだけの写真でしたね。
それを社内のブランド担当者が見ると、「この写真、ウチの服ちゃうよ、やめてー」って言い出してしまう(笑)。そこで自社サイトはもちろん、他社さんが運営する外部モールサイトの商品写真を自社内で制作したものに差し替えてもらうようにしました。
―効果はどうでしたか?
めちゃくちゃ売れましたよ(笑)。そして一番話題になったのは、モデルにしゃがんでもらい座って撮影した写真を使ったことですかね。着ているコートの雰囲気を出すためには、しゃがんだ方がいいという話になって撮影しました。普通では考えられないですが、これもね、売れました。
着ているコートの雰囲気を出すために、あえてしゃがんで撮影したモデル
―内製化だからこそ、ブランドや商品の魅力が分かっているということが伝わるいいエピソードですね。
我々は関西発の会社なので、最初は関東での知名度が低かったんですが、ZOZOTOWNなどの外部モールさんに参加させてもらった辺りから、知名度が上がっていきましたね。
そしてアーバンリサーチ新宿店を出した時に、東京でURオンラインストアの利用者が増え、店舗とWebの連携を強く感じましたよ。
やっぱり店舗がないところでは、Webは認知が低く売れにくいのですが、店舗を出せばその地域周辺でWebが売れることを実感しました。
この件もあって、Webがリアル店舗からお客様を奪うのではなく、リアル店舗のお客様がWebを使ってくれるっということを、店舗スタッフも理解しネットの必要性を感じてくれました。
2日で5,000枚売れた。実感するO2Oのデータ効果。
―まさにO2Oですね。
はい、相乗効果を実感してくれたと思います。あとはデータですね。
私はもともと営業をやっていたので、お客様の顔を覚えてノートに書き出してっていう超アナログなやり方で仕事をしていましたが、ネットはデータが取れるでしょ。「こんなに便利なものがあるのなら使わな損」ということで色々とデータを活用していきましたよ。
そうすると、徐々にデータから、「お客様のこの商品が欲しい」という声が聞こえてくる。
例えば、最高でも5,000枚ぐらいしか作ったことがない商品について、Webデータから声を聞いてみるとオンラインストアだけで8,000枚ぐらい売れそうだということがわかった。
そこからすぐに商品部に掛け合ったんですが、予算がないとかで、なかなか相手にしてくれなかった。そこで、「売ってくれという人がおるんやから、作ったらええやないの」という勢いで会社に掛け合ったところ、最終的には最高数と同じ5,000枚作ったら2日で売れました。商品部のメンバーは、「ほんまや」と納得してくれました(笑)。
さらに次の年は1万枚にした。正直、商品が運び込まれた時は(売れるか不安で)ゾっとしましたけど、これも1週間ぐらいで売れました。
―データ活用も積極的に実施して、リアル側の人たちにWebの活用方法を伝えていったんですね。
本当は営業の人間がITのスキルを持っていると一番いいのですが、そんな人間は稀ですね。営業の人はブランドの世界感や売り方などファッションの商売が分かるけど、ITには疎いタイプの人が多いですからね。そこをくっつけると良いものができるんですが、これがね、なかなかくっつかないんですよ(笑)。だから最初は自分が接着剤になって頑張りましたよ。
Webサイトを作る時なんかは、ブランド側は世界感を主張するし、WebクリエイターもWeb側のルールなどを主張する。なんやかんやで色々とやりあって、今のWebサイトの世界感があるわけです。
なので、採用の時に気をつけたのが、ITをやっている中でも服に興味がある人、本当はうちのブランドがいいですが、最悪うちのブランドじゃなくてもファッションが好きでWebデザインが好きな人。そういうメンバーを積極的に採用してから売り上げも伸びていきました。
坂本満広(さかもと・みつひろ) 1980年アーバンリサーチ入社。ジーンズカジュアルショップ店長を務めた後、1985年店舗マネージャーに就任。1997年URBAN RESEARCHアメリカ村店(1号店)の責任者として従事。2004年通販の責任者として事業を展開。約10年で売上高80億円。2013年よりアーバンリサーチWEB事業部シニアマネージャーに就任。現在に至る。
(後半は明日公開予定です)
※この記事はアパレルウェブより提供を受けて配信しています。
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