【コラム 山口利昭】監査等委員会設置会社のガバナンス(監査等委員会の位置づけ)

2014年12月16日 11:43

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【12月16日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

 東証と金融庁が事務局とされるコーポレートガバナンス有識者会議がガバナンス・コードのたたき台を公表して以来、俄然、監査等委員会設置会社への移行を検討していらっしゃる上場会社が増えているようです。

 東証1部上場会社において、すでに75%ほどが社外取締役を一人以上選任しているそうですが、「独立社外取締役」となりますとその数は半減します。ましてや「独立社外を2人以上選任すべき」ということになりますと、なかなか人材を探すのも苦労するところ。私も某上場会社から監査等委員会設置会社への移行に関するご相談を受けておりますが、会社側は現在いらっしゃる社外監査役さんお二人に「横滑り」で社外取締役さんになっていただくことを検討されています。

 ただ、最近出版された会社法立案担当者の方々の解説本や旬刊商事法務の座談会記事などを読みますと、監査等委員である取締役の方々って、取締役人事や報酬といった監督機能への期待が極めて高いと思いませんか?いや「期待」で済むならいいですけど、善管注意義務の内容として、かなり厳しい説明責任が含まれるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。そもそもアドバイザリーボード型が主流の監査役設置会社の取締役会ではなく、社長の業績評価を中心としたモニタリングボード型の取締役会に移行する覚悟がないと、これって機能しないように思えてきました。

 ところで前から少し疑問に思っていたのが「監査等委員会設置会社の取締役会と監査等委員会設置会社との関係」です。これまで出版された多くの「改正会社法解説本」では、監査等委員会は取締役会の内部機関(下部機関)であり、取締役会から独立したものではない、といった評価がなされています(私の「会社法改正のグレーゾーン」でも同じような説明をしています)。しかし、実際は以下のようなもの(http://www.sakurafinancialnews.com/data/yamaguchitoshiaki-kansato001.jpg)ではないかと。

 左は指名委員会等設置会社の指名委員会等と取締役会との関係を示すものです。監査等委員会設置会社でも、同様の関係にあると説明されることが多いのですが、実は右図のように表現するのが適切ではないかと。最近出版された立案担当者の方々の解説も

 このような監査等委員である取締役の位置付けに鑑みると、監査等委員会は、指名委員会等設置会社の指名委員会等とは異なり、取締役会の内部機関として位置づけることはできず、むしろ、取締役会から一定程度独立したものとして位置づけられ、監査役に類似した位置づけとなります」(「一問一答平成26年改正会社法」法務省大臣官房参事官坂本三郎編著 商事法務 48頁参照)。

 と述べておられます。根拠としては、以下のような図式(http://www.sakurafinancialnews.com/data/yamaguchitoshiaki-kansato001.jpg)で表現できるのではないでしょうか。

 たしかに監査等委員である取締役も、取締役会の構成員ですから、指名委員会等設置会社と同様な位置づけとも言えそうなのですが、やはり根拠条文等からしますと監査役類似の関係に立つとみてよいと思います(すいません「報告義務」のところは「取締役会だけでなく株主総会にも報告義務を負う」というのが正しいです。根拠条文も399条の5、同条の6ですね ちなみに報告義務を負うのは「監査等委員会」ではなく「監査等委員」です)。

 取締役会と監査等委員会との位置づけを議論する実益としては、たとえば任意の指名委員会や報酬委員会を設置した場合、監査等委員の人事、報酬に関する意見陳述権との関係をどう整理するか、といったことに関わってくるように思います。また監査等委員ではない社外取締役にも利益相反審査機能が期待されるわけですが、監査等委員会(または選定監査等委員)の利益相反評価機能とどういった関係に立つのか、といった整理も必要になってくるのではないでしょうか。こういったことを考えてみると、監査役会設置会社の社外監査役さんが監査等委員会設置会社の監査等委員である社外取締役さんに就任されるとなると、やっぱり相当な覚悟が必要になるのではないかな、と思わずにはいられません。【了】

 山口利昭(やまぐち・としあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。
 大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。

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