【コラム 山口亮】総選挙2014:最高裁判所裁判官国民審査、内閣法制局出身の山本庸幸裁判官の賛成率がひそかに注目

2014年12月13日 20:20

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【12月13日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

■山本裁判官の反対意見


 明日、12月14日の衆議院選挙と同時に行われる最高裁判所裁判官国民審査で、内閣法制局出身の山本庸幸裁判官とほかの裁判官との賛成率の違いが、ひそかに注目されている。

 2014年11月26日に、2013年7月21日施行の参議院議員選挙の投票価値の不均衡が争われた事案が原因だ。

 最高裁判所大法廷の判決(事件番号は、平成26年(行ツ)第155号,第156号 選挙無効請求事件、平成26年(行ツ)第78号,第79号 選挙無効請求事件)が言い渡され、注目するべき反対意見を記載したからだ。

 多数意見は、まとめると

 「裁判所は選挙制度に憲法上問題ありと判断しても、是正の方法については、立法府は幅広い裁量権を持つ」「4.77倍の一票の格差は違憲」「選挙までに格差を十分に是正しなかったことは立法府の裁量の限度内」「都道府県単位の選挙制度を改めるなどして、できるだけ速やかに不平等状態を解消するべき」

 とする趣旨で、選挙自体は憲法違反ではないとした。今回の国民審査の対象となっている、池上政幸裁判官(検察官出身)、山崎敏充裁判官(裁判官出身)は、多数意見を構成している。

■選挙は「違憲」かつ「無効」


 だが、同じく今回の国民審査の対象となっている、鬼丸かおる裁判官(弁護士出身)は、山本庸幸裁判官(内閣法制局出身)、木内道祥裁判官(弁護士出身)が反対意見をつけた。

 特に、山本庸幸裁判官(内閣法制局出身)は、選挙は、投票価値は2割程度にとどめるべきだとし、「違憲かつ無効」であるとして、

 「衆議院議員選挙の場合であれば2倍程度の一票の価値の較差でも許容され,これをもって法の下の平等が保たれていると解する考え方があるが,私は賛成しかねる。というのは,一票の価値に2倍の較差があるといっても,例えばそれがある選挙では2倍であったが,次の選挙では逆に0.5倍になるなどと,何回かの選挙を通じて巨視的に観察すれば地域間又は選挙区間でそうした較差の発生がおおむね平均化しているというのであれば,辛うじて法の下の平等の要請に合致しているといえなくもない。

 ところが、これまでの選挙の区割りをみると、おおむね、人口が流出する地域については議員定数の削減が追いつかずに一票の価値の程度は常に高く,人口が流入する地域については議員定数の増加が追いつかずに一票の価値の程度は常に低くなってしまうということの繰り返しである。

 これでは後者の地域の国民の声がそれだけ国政に反映される度合いが一貫して低くなっていることを意味し,代表民主制の本来の姿に合致しない状態が継続していることを示している」

 「判決後においても、裁判所による選挙無効の判断を受けて一票の価値の平等を実現する新たな選挙制度が制定されこれに基づく選挙が行われて選出された議員で構成される参議院又は衆議院が成立するまでの間を含めて、後述のとおり一定数の身分の継続する議員で構成される院により議決等を有効に行うことが可能となるので、その点で国政に混乱が生ずる余地はない」

 「無効とされた選挙において一票の価値(各選挙区の有権者数の合計を各選挙区の定数の合計で除して得られた全国平均の有権者数をもって各選挙区の議員一人当たりの有権者数を除して得られた数。以下同じ。)が0.8を下回る選挙区から選出された議員は、全てその身分を失うものと解すべき」

■一票の格差の反対意見がメルクマール


 要するに、2割を超える格差を持つ選挙区のから選出された議員の身分をはく奪しても大した影響がないとして、他の反対意見からも一歩進んだ形になり、高く評価できる内容である。

 特に従来の司法判断は、参議院の一票に格差に寛容であったこと、一票の格差を背景として、議員一人当たりの有権者数が少ない地域で、有権者一人あたり、大きな額の公共投資が行われてきたことが容易に推定できること、このことが都市部での子育て等のインフラ整備が行われない背景であること(例えば、鈴木準『社会保障と税の一体改革を読み』(日本法令、2012年)の226ページ以降に、記述がある)などを考えると、社会保障や税の問題と、一票の格差の問題は、実は密接な関係があることを、気に留めておいた方がいい。

 一票の格差の反対意見をメルクマールに、国民審査の投票を行うことは、有力な意思決定方法だろう。【了】

 やまぐち・りょう/経済コラムニスト
 1976年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、現在、某投資会社でファンドマネージャー兼起業家として活躍中。さくらフィナンシャルニュースのコラムニスト。年間100万円以上を書籍代に消費するほど、読書が趣味。

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