【コラム 山口利昭】まるか食品事例に学ぶ食品事故の危機管理の在り方

2014年12月12日 15:28

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【12月12日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

 すでにご承知の方も多いと思いますが、まるか食品さんの製造した即席めんの中に虫が混入していたこと判明し、第三者機関による調査の結果「製造過程で混入した可能性は否定できない」との結論に達したそうです。まるか食品さんのHPによると、この結果、市場の商品を回収するだけでなく、工場操業を全面的に停止し、販売もすべて中止することを決定しました。

 日経ニュースによると、同社は品質管理を強化するため、生産設備の刷新や商品の改善を検討し、その投資額は数十億円にのぼる可能性があるとのこと。設備投資もさることながら、無期限の操業・販売の停止ということは、事業者にとってたいへん厳しい事態です。

 拙著「不正リスク管理・有事対応」をお持ちの方は、ぜひ同書233頁以下「第4章有事対応-D顧客・消費者への対応」をご参照いただきたいのですが、近時の食品事故事例は「個別対応からレピュテーション維持へ」と危機対応の手法が変遷しています。

 以前であれば「虫が入ってますよ」といった苦情に対しては、喫緊の健康被害拡大のおそれがない限り、権利救済を目的とした個別対応で済ますこともできたかもしれません。しかし今回の事例のように、「ペヤングのやきそばに虫が入っていた」とSNS(今回はツイッター)で評判となり、その情報が拡散するなか、企業は社会的信用を維持するための対応が必要となります。まさに経営者による指揮命令が必要な場面となります。

 同書でも「対面する企業としては、公平な立場にある専門家の意見を添えるなどして対応しなければならない」と書きましたが、まるか食品さんも第三者機関により、製造過程で虫が混入した可能性を否定しようとされたものと思います。

 しかし、第三者機関の回答は「否定できない」とのことで、そうなりますと商品選別に賢くなった消費者への対応は同書で述べているとおり「消費者のための」対応では済まされず、「消費者の立場で」対応することが求められます。ここが最も重要なポイントです。当ブログで何度も申し上げているように、安全思想から安心思想へ社内の常識を転換しなければなりません。

 「消費者のために安全な食品を作る」では消費者は納得しませんし、おそらく行政当局も納得しないと思います。なぜなら「安全」は外から見えないからです。「消費者の立場で対応する」ということは、上記まるか食品のように一旦操業を停止し、設備をとりかえて、商品も改善しなければ消費者は「ああ、今度はだいじょうぶだ」といった意識にはならないでしょう。これは大規模なリコール事件を起こした企業にとっても同様です。

 さて、ここからはリスクの重大性ではなく、リスクの発生可能性(発生確率)に関する話ですが、たとえば上記まるか食品さんの事例で、被害者の方が「虫が混入していた」とツイッターで叫ぶことなく、同社の苦情窓口に問題商品を提供していただけならば、同社の対応は変わっていたでしょうか。

 もちろん被害者の方への個別対応は誠意を持ってなされたものと思います。しかし、それを超えて、全商品回収、操業停止、設備改善という経営判断に至っていたでしょうか。仮に被害者の方がツイッターで叫んだあと、当該問題商品を廃棄して、まるか食品さんの手元に問題商品が返却されなかったとしたらどうでしょうか。

 もちろん、まるか食品さんの場合には対応は同じだったと思いますが(ただし毎日新聞ニュースが報じるように、当初まるか食品さんは「製造工程で混入することは考えられない」と広報されていたことは気になりますが)、すべての事業者において性善説的に考えることはできないように思います。

 ただリスク管理の視点からいえることは、まるか食品さんのような対応が当たり前の時代となれば、後日、被害者の方がSNSを活用したり、苦情窓口で対応した社員が通報や告発に及ぶことによって、個別対応に終始した企業は「不祥事を隠した」と評される最悪の結果を将来する可能性が高まっている、ということです。

 もうひとつ、まるか食品さんがなぜ全操業を停止し、全商品を回収しなければならなかったのか、という点について考えるべき課題があります。食品事故が発生した場合を想定したリスク管理の在り方です。

 未然防止のための安全対策に加えて、発生時の被害を最小限度に食い止める対策を講じることで、たとえ製造過程で虫が混入していたとしても、その混入ルートを突き止められるために、「この食品ルートの○○月から○○月の分だけ回収します」といった説明が可能となります。この説明を消費者や当局が納得できれば全操業を停止する、といったことは回避できます。

 安心思想による危機管理が求められる時代になればなるほど、「決して起こしてはいけない」といった発想でのリスク管理だけでなく「起きたときにどうすべきか」といった発想でのリスク管理が会社を救うことを忘れてはならないと考えます。【了】

山口利昭(やまぐち・としあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。
大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。

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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。

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