円安は日本経済にとって基本的には良いことだと再認識しよう

2014年12月8日 08:02

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記事提供元:フィスコ


*08:03JST 円安は日本経済にとって基本的には良いことだと再認識しよう
ドル・円がついに120円台に乗せた。急速な円安に対して、輸入物価が上がることや、円安による倒産が増えているとして批判も出ている。ただ、120円はちょうどリーマン・ショック前の水準に戻っただけとも言える。
 確かにここまでのスピードは企業の対処を困難にさせる点で問題がある。しかし、円安は日本経済にとって基本的に良いことである。まず、当然ながら日本の主力輸出企業にとっては増益要因となる。円安による価格競争力アップで数量ベースの増加も見込める。中国や韓国が円安に深刻な懸念を表明しているのは日本企業の競争力が底上げされる脅威を感じてのことだ。国内人口が減少する日本は成長の源泉を海外市場に求めざるを得ず、日本企業が他国との競争で世界の市場で勝つことは重要だ。なお、企業の海外生産移転が進んでいることから輸出の数量ベースの増加は期待できないという声もあるが、円安が長期化する様相となってくれば国内への工場回帰は必然の流れとなろう(そうなれば国内雇用も増える)。
 また、日本は世界最大の対外債権国(純資産保有国)である。対外資産残高は約800兆円、純資産でみても約300兆円も保有している。その過半がドル建てであるため、円安になると円安になった分だけ資産の評価額が増える。また、これらの資産が得られる利息等の所得収支も円安によって大きく増加する。1%円安になるだけで所得収支は約1500億円も増える。
 他方、円安によって輸入品や原材料品の価格は上昇し、輸入業者や消費者にとってはマイナスの影響がある。しかし、世界の商品市況において食料や原材料の価格は低位で落ち着いている。特に原油は大幅安となっており、円安の効果を相殺するに足りる下落となっている。日本の貿易収支は、原発停止後エネルギーの輸入の増大で赤字に転落しており、円安の進展はこれに拍車をかけるところであったが、実に幸いな状況となっている。原油が値下がりしている間に原発再稼働を進めれば、エネルギー輸入の増大問題が解消することも期待できる(再稼働の賛否はさておき)。
 円安による倒産が増えているという指摘もあるが、「円高不況」時からの全体の倒産件数の減少からすると、木を見て森を見ずと言わざるをえない。確かに、一部の業界や企業は急速に円安に動いたことで不利益を被っている。しかし、円高でも円安でもどちらかに振れれば不利益を被るグループが出てくるのは当然である。「日本全体」でみると円安は良いことなのであるから、円安は容認しつつ、一部の特に不利益を被るグループに対しては、それぞれ個別に政策によって適切な対応を取ればよい。
 世界では現在、経済が好調な米国以外の国・地域は自国の利益のために密かにあるいは公然と通貨安競争をしている。現在の情勢下で、円安の弊害を誇張して主張し円高に誘導するとすれば、それは日本全体の国益には反すると言わざるをえない。《YU》

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