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【コラム 山口利昭】コーポレートガバナンス改革と結び付く今後の内部通報制度
【11月29日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
11月25日、会社法の改正に伴う会社法施行規則、会社計算規則の改正案(パブコメ案)が公表され、(今後修正の予定がありますが)ほぼ全容が明らかになりました。また、金融庁、東証が事務局となっているコーポレートガバナンス・コード有識者会議により策定される「ガバナンスコードのたたき台」の骨子(http://www.fsa.go.jp/singi/corporategovernance/siryou/20141125/01.pdf)も明らかになりました(金融庁HPで閲覧できます)。それぞれ議論すべき問題点はたくさんありますが、いずれにおいても、企業不祥事の早期発見等を目的とした内部通報制度の充実について条文(条項)に明記されることになり、企業、とりわけ「特定監査役会設置会社」※クラスの会社においては、今後の対応が喫緊の課題になりそうです。
※・・・会社法上の公開会社かつ大会社である監査役会設置会社のうち、金商法上の有価証券報告書提出会社であるもの(改正会社法施行規則案74条の2、第2項参照)
たとえば取締役会設置会社の場合、業務の適正を確保するための体制整備のために、会社法施行規則案100条3項4号では、従業員が監査役に報告をする体制、子会社従業員が親会社監査役に報告をするための体制整備が求められており、同5号では、従業員が、このような報告を行ったことによって不利益な取り扱いを受けないことを確保するための体制整備が求められています。4号では、従業員から報告を受けた別の従業員の報告ルートの確保も求められているので、まさに内部通報制度の充実が会社法上も求められています。これは企業グループとしても同様です(企業集団内部統制の一環として、親会社が子会社従業員より通報を受けるシステムの構築等)。
ここで特記すべきは、監査役の職務執行の実効性確保のために報告体制の整備が求められている点です。これまでも内部通報制度は各社において整備されてきたと思いますが、従業員の不正は、通報制度によって早期発見することができても、経営陣の不正は握りつぶされてしまって実効性に限界があると言われています。私も常々「ヘルプラインはガバナンスと併せて議論しなければ実効性は向上しない」と申し上げてきましたが、ここでようやく監査役への報告体制の整備・・・という形で整備が求められるレベルになりました。
一方、ガバナンス・コード有識者会議におけるたたき台では「第2章 株主以外のステークホルダーとの円滑適切な協働」において、「基本原則2-5 内部通報」として、以下のように条文化されています(たたき台なので、もちろん修正される可能性はあります)。
「上場会社は、その従業員等が不利益を被る危険を懸念することなく、違法または不適切な行為・情報開示等に関する情報や真摯な疑念を伝えことができるよう、また、伝えられた情報や疑念が客観的に検証され適切に活用できるよう内部通報できる適切な体制整備を行うべきである。取締役会は、こうした体制整備を実現にする責務を負うともに、その運用状況を監督すべきである。(基本原則)
上場会社は、 内部通報に係る体制整備の一環として、経営陣から独立した窓口の設置(例えば、社外取締役と監査役による合議体を窓口とする等)を行うべきであり、また情報提供者の秘匿と不利益取扱禁止に関する規律を整備すべきである。(補充原則)」
もうかれこれ10年近くブログを続けていますと、狭い範囲ではありますがそこそこブログの知名度も上がるため、新聞で大きく報じられた不祥事をマスコミに情報提供した社員の方々から、いろいろとご相談を受けることがあります。新聞では「内部告発があった」とは書かれていませんが、「発端はやっぱり内部告発だったのか。自社に内部通報はできなかったんだなぁ」と悔しい思いをすることもあります。もし内部通報制度が機能していれば、すくなくとも「二次不祥事」は防止することができたのではないか、と思います。企業の持続的成長のためには理念と実業のバランスが求められます。不祥事は起こしても、企業理念にだけは傷をつけぬよう、このような原則が盛り込まれたはずです。
おかげさまで、11月16日の日経新聞「書評」にて取り上げていただきました「ビジネス法務の部屋からみた会社法改正のグレーゾーン」ですが、本書の中でも一章を設けて「内部通報制度が経営者を救う」ことを示しています。とりわけ、従来と異なり、内部通報制度を取り巻く経営環境が大きいく変わっていることを4点、指摘させていただいています。一次不祥事を早期に発見し、二次不祥事を未然に防止する・・・、内部通報制度の適切な運用は、今後の企業価値向上にとって不可欠だと思います。不幸にしてリコールは発生させてしまっても、決してリコール隠しは起こさないことがブランドイメージを維持するためには必要です。
内部通報制度は、従来の「不正リスク管理」の一手法から、リスクをとりながらも前に進むための「攻めのガバナンス」の一手法へと変わりつつある、というのが実感です。また非財務情報の見える化、企業価値向上との因果関係の説明義務といったことが求められる時代となれば、ますます運用状況のチェックが求められることになろうかと。【了】
山口利昭(やまぐちとしあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。
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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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