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【書評】ROE(自己資本利益率)からリーガルリスクを学ぶ
【11月28日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
11月25日の日経新聞電子版ニュースで、株主還元率を100%にする、と宣言したアマダ社の株価がいまひとつ向上しない、という記事が掲載されていました。宣言直後こそ株価が50%ほど向上したものの、その後は元に戻り、現在はPBRが1.04倍ということで、いくら株主還元率を向上させたとしても、本業によって儲けるためのストーリーを描けなければ株価向上にはつながらない、と記されています。
アベノミクス(安倍政権における経済戦略)のもとにおけるコーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コード、そしてモニタリング・モデルによる取締役会の在り方を理解するうええに不可欠なのがROE(自己資本利益率)というキーワードであることは間違いないと思います。企業価値の測定において、ROEが絶対的な基準かどうかはわかりませんが、少なくとも国内・国外を問わず、株主が注目している数値であり、また成長戦略の中でも「最低8%以上」と具体的に数値目標が盛り込まれている以上は、株主との対話においては無視できないものと言えるでしょう。
さて、「20年ぶりにやってきたROEの時代」と言われていますが、株主との対話、取締役会における経営執行部の業績評価において、ROEをどう理解すればよいのか、その基本を理解するために本書はとても役に立ちました。いや、私自身「理解した」というのは言いすぎかもしれませんので、今後も読み返すことでしょうし、すくなくとも「ROEに関心を持てる」ようになりました。
勝てるROE投資術(広木隆著 日本経済新聞出版社 1,400円)
本日現在、アマゾンの株式投資部門の「ランキング1位」なので、ご紹介するまでもないのですが、著者の広木氏はマネックス證券のチーフ・ストラテジストの方です。そもそもは(題名のとおり)ROEを学べば株式投資でガッポリ儲けられる・・・といった趣旨で出版されているものと思います(たぶん)。
ただ、私の個人的意見ですが、これほど題名と中身が違う本もめずらしいのではないかと感じました。それは「高いROEの会社の株を買ってはいけない」といった説明や、あたりまえのことですが、絶対に儲かるための企業価値指標などありえない、といった説明からもわかります。ともかく自分の手で計算して、企業業績と市場評価の変化を常に追いかけていることが大切とされていて、決して本書を読めばすぐに儲かる・・・とは書いていません。「ROEの死角」についても二章を設けて丁寧に解説されています。要はROEを学んだからといって、ガッポリ儲かる・・・というのは甘いということでしょうね(当たり前といえば当たり前ですが・・・)。
ただ、本書は様々な運用機関でファンドマネージャーとして活躍されてこられた広木氏が、機関投資家の立場からROEを読者に真剣に理解してもらうために熱く語っておられるところが参考になり、十分元を取れる内容です。頭では勉強していても「では実際にROEは『目的ある対話』の中で、どのように共通言語として活用されるのか」というところが、本書によってかなり明快になってきます。資本コストとの関係についても解説されていますので、長期保有を目的とした機関投資家との対話というものもぼんやりとイメージが湧いてきます。
「本当はもっと正確に書きたいのだろうな」と拝察しますが、ファンドマネージャーとしての専門家として、いわば一般の方に向けて「通訳」の役割に徹しているところがすばらしい。いまのROEの注目度からすれば「多くの経営者であれば、このように動くであろう」といった行動指標になるはずですから、資本政策にせよ、M&Aを含めた投資判断にせよ、経営者の行う判断の経済的合理性を理解するにあたって、ROEを理解することが今後役に立つだろうな、と思います。
経営者の不正や善管注意義務違反を問われかねない経営判断など、どれもいきなり社外取締役にはわかるはずもなく、ただ、「これは経済的合理性があるといえるかどうか」という視点から予兆を発見しなければなりません。これはオリンパス社の損失飛ばし・飛ばし解消スキーム事件から得た教訓です。また、実体的正義よりも手続的正義が重視される会社訴訟においても、経営者がリーガルリスクを回避するためには経済的合理性ある手続きを踏んだことを示す必要があります。ということで、バリュエーションの理解に乏しい私のような社外役員でも、リーガルリスクを低減させるためにはとても役に立つ一冊でした。【了】
山口利昭(やまぐちとしあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。
※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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