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【コラム 山口利昭】不祥事が企業ブランドに及ぼす「負のストーリー」
【11月14日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
ノーベル物理学賞を受賞され、また文化勲章を受章された中村教授の関係改善の申出に対して、中村教授が勤務されていた日亜化学さん(中村さんと裁判で争っていた会社)は「深謝の言葉だけで十分」として、これを事実上受け入れませんでした。この日亜化学さんの対応については賛否両論あるようですが、事実関係を正確には知らない私はここで「どっちが正しい」といったことを申し上げるつもりはありません。
ただ、日亜化学という会社が日本企業である以上、「中村さんはどうして関係改善を記者会見の場で提案したのだろう。なぜ根回しをしなかったのだろうか」と素朴な疑問が湧きます。「根回し」をしていれば、もう少しうまくいく可能性はあったのではないだろうか、と。
根回しもなく、グループ会社含め8300人もの社員を擁する企業のトップが「おお、そうでしたか。私も関係を改善したいと思っていました。過去は水に流して握手しましょう」と言えるでしょうか。そんなことをすれば、中村教授との関係は改善できたとしても、社長に後ろからいろんな弾が飛んでくるでしょうし、なによりも「共同研究がしたい」という中村教授の提案を、果たして社員が望んでいるかどうかもわかりません。
日亜化学の経営トップの懐の深さというものは経営者個人の問題ですが、ここでは日亜化学という組織マネジメントの在り方が問われる場面であり、昨日の日亜化学さんのコメントが、いま組織としてなんとかギリギリ可能なコメントだったのではないでしょうか(あくまでも私個人の考えですが)。
さて、ここからが本題ですが、本日(11月5日)の日経朝刊に「アジアブランド調査」の結果が集計されており、アジア各国で日本メーカーの商品について「買いたいブランド」としての地位が相対的に低下している、と報じられていました。とくに自動車についてはアジア諸国ではやはりドイツ車(ベンツ、アウディ、BMW)のブランドイメージが突出しており、トヨタのレクサスすら「買いたい車」の第11位だそうです(でも実際には予想営業利益2兆円、ということですから売れてることは間違いないと思いますが・・・)。
私がご紹介するまでもなく、ただいま売れに売れているルディー和子氏の「合理的なのに愚かな戦略」(日本実業出版社 2014年)の中で、レクサスが高級ブランドになれない理由が、ルディ-さんの持論をもって書かれていて、たいへん納得させられます(私、ルディ-さんのことはセブン&アイホールディングスの社外監査役に就任されるまでは存じ上げませんでしたが、マーケティングの世界では著名な方だったのですね)。
とりわけ「消費者の購買選択、意識的選択は無意識のうちに準備される」というのはそのとおりだと思います。消費者は論理的に購買商品を選択しているのではなく、意識的選択は無意識のうちに準備されていると思います。このあたりは東京大学大学院准教授の池谷裕二氏の著著「ココロの盲点」(朝日出版社 2013年)120頁以下で、認知バイアスの代表例としても挙げられていて、常々脳心理学はおもしろいなぁと感じます。
ルディ-さんも、レクサスにブランド価値が付与されるためには、この無意識的選択に訴えるような「ストーリー」がなければドイツ車にはかなわないのではないか、と(これはルディーさんの意見ですが)述べられています(同書138頁以下)。たしかに「なんば花月」で吉本の漫才を見に行っても、人気のタレントが登場すると、まだ漫才が始まる前から観客はみんな笑う準備をしていますよね。新人のタレントさんはえらいハンディを負ってるな・・・と感じます。
ところで、ルディ-さんの同書では、いくら人間の脳にある「報酬系」が活性化され、買いたいものを選択する意識が出てきたとしても、これを打ち消すような感情が湧いてくると選択からはずされてしまうことも記されています。商品や企業に対する悪いイメージが残っているとこの購買意欲に関わるということですが、これは企業不祥事等が代表的な例ではないかと思います。不祥事が繰り返し報じられるなかで、人間は不祥事発生企業に対する悪い感情が増幅されていき、無意識のうちに選択からはずされてしまうということもあり得るのではないでしょうか。まさに報酬系を減退させてしまうような「負のストーリー」です。
拙著「不正リスク管理・有事対応〜経営戦略に活かすリスクマネジメント」の107頁以下(レピュテーションリスク)でも詳しく書かせていただきましたが、誰でもわかりやすいような企業不祥事を発生させてしまうと、消費者の頭の中に当該企業の悪いイメージが刷り込まれてしまい、レピュテーションを毀損してしまいます。
企業不祥事の中でストーリー性に富んでいるのは明らかに一次不祥事(たとえば社員の不正)よりも二次不祥事(たとえば組織ぐるみで社員の不正を長年放置したり隠したり、発覚して虚偽報告をすること)です。二次不祥事には、消費者や国民の利益をないがしろにしている、という企業の意思表示がはっきりと出ているところにストーリー性を感じます。だからこそ二次不祥事は経営者自らそのリスクを把握して絶対に回避しなければなりません。
不祥事を発生させても顧客がそのまま顧客でいてくださる・・・というのは、平時のブランド戦略からですが、不祥事を発生させても自浄能力を発揮する・・・というのは、負のストーリーを顧客に抱かせないという意味において経営者が心がけるべきクライシスマネジメントの一環だと思います。【了】
山口利昭(やまぐちとしあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。
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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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