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【判例評釈】社外取締役・社外監査役研修の必要性を痛感させる判決-シャルレ株主代表訴訟事件
【11月14日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
最近の社外取締役ネタといえば、企業価値の向上(企業の持続的成長)に資するか、「株主との対話」においてどういった意義があるか、といった「役割論」に関する議論が中心ですが、かりに元経営者や現経営者の方が、他社の社外取締役に就任するのであれば、「真剣に社外役員法務研修を受けておいたほうがいいのではないか?」と思ってしまうような判決が出ています。これから社外監査役に就任される方はセイクレスト事件判決、そして社外取締役に就任される方は、このシャルレ事件判決をよく読んでから就任したほうがよろしいのではないかと。また、最近話題の社外役員特約のある役員賠償責任保険についても検討しておくべきと思います。
すでに拙ブログでもご紹介しているシャルレ株主代表訴訟判決(神戸地裁)の判決全文が11日に朝日「法と経済のジャーナル」有償版でリリースされており、ようやく全文を読むことができました。著名ブログや判決雑誌等で、この事件の判決要旨は紹介されていましたが、(私が要旨を読むときに見落としていたのかもしれませんが)、判決全文を読んで驚きました。シャルレの事件当時の社外取締役3名の行動に、会社法上の善管注意義務違反(情報開示義務違反)が認められていたのですね。一般投資家に誤解を招くような情報開示について、これを容認していたことが、社外取締役らの情報開示義務違反とされています。
新聞報道でも「社外取締役3名の責任は認められなかった」とありましたので、私はてっきり善管注意義務違反の主張自体が否定されていたものと思っていました。しかし判決を読むと、原告株主が主張していた(社外取締役らの)善管注意義務違反が認められ、その代り、損害との間の相当因果関係は認められないとして責任が否定されていたようです。このパターンは、有名な大和銀行株主代表訴訟事件判決で、ニューヨーク支店に往査に出かけた監査役さんの善管注意義務違反が認められつつも、損害との間に因果関係が認められない(したがって法的責任は否定)とされたのと同じですね。
シャルレの神戸地裁の判決について、原告・被告双方から控訴がなされたこと、また原告株主には「株主の権利弁護団」の弁護士の方々が支援をしていることからみても、今後もガチンコ勝負の様相であり、社外取締役の法的責任に関する争点について、控訴審、最高裁の新たな判断が出てくる可能性があります。アーバンコーポレーション株主損害賠償請求事件判決のように、役員の金商法上の責任が認められる・・・ということでしたらまだしも、金商法上の開示責任が及ばない開示情報(ここでは賛同意見表明)に会社法上の善管注意義務違反が認められる、ということについては、社外取締役や社外監査役の実務に影響を及ぼしかねない判決です。著名な学者さんや法律実務家の方による判例評釈で、この判決がどのように受け止められるのか、解説が待たれるところです。
MBO固有の事情の下での情報開示義務、と限定してよいのかどうか、レックスHD事件で明らかにされた取締役の情報開示義務とどう異なるのか、もっと広く、社外取締役の情報開示義務について妥当するのか、という点についての解説を期待します。私もまだざっと一読したにすぎませんので、もう少し、事案の特殊性などを含めて検討してみたいと思っています。
ともかく、文書提出命令に関するリスクを含め、このような判決が出る時代となれば、現役の社外役員の皆様、これから社外役員に就任される皆様に向けて、大手法律事務所の先生などが中心になって「社外役員研修」をされるほうがよろしいのではないでしょうか。あっでも、この判決文に登場される多くの著名法律事務所(笑)の先生方は、当事者なので無理かもしれませんが(^^;【了】
山口利昭(やまぐちとしあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。
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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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