【コラム 山口利昭】多議決権種類株式の活用に関する2つのアプローチ

2014年11月2日 03:22

印刷

記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【11月1日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

 今朝(10月27日)の日経新聞に「ベンチャー上場 もろ刃の種類株」と題する記事が掲載されていました。グーグルやフェイスブックの経営陣が活用している多議決権種類株式について、日本企業ではほとんど活用されていませんが、サイバーダイン社の上場で活用された例なども出てきて、今後は広く活用が検討されるべきではないか、というもの。ただし事業が傾いたときに、経営者を交代させにくいことから、コーポレートガバナンス改革の波に反する可能性もある(したがって両刃の剣である)、とされています。

 いっぽう、タイミング良く、旬刊商事法務の最新号(2046号)の座談会記事「企業統治制度改革のゆくえ(下)」でも、今後の企業統治改革の課題として、この多議決権種類株式の活用が話題に上っています。現経営者の人的資本を尊重するための活用という視点もありますが、興味深いのは、モノ言う株主が経営者と対峙する際に、その地位を強化する目的で多議決権種類株式を保有してはどうか、経営者が短期的利益追及から解放されるよう、短期保有株主の議決権行使を制限してはどうか、ということが重点的な検討課題とされています。まさに長期保有株主と短期保有株主のバランスを図るための、そしてガバナンス改革のための多議決権種類株式の活用、ということであり、アプローチがベンチャー企業向けの活用方法とは異なるようです。

 ベンチャー企業での活用・・・ということはよく語られていましたが、上記座談会での話題のようなアプローチでの話はあまり考えていませんでしたので新鮮でした。たしかにオックスフォード大学のメイヤー教授のこちらのインタビュー記事(http://business.nikkeibp.co.jp/article/NBD/20130212/243596/?ST=pc)にあるように、dual class sharesが世界的に活用されている、ということなので、日本でも多議決権種類株式の活用が検討されることは、とくに違和感がないのかもしれません。

 もちろん、日本の会社法はかなり厳格に株主平等原則、一株式一議決権の原則を維持していますので、簡単に導入できるようなものではありません。新規上場時でなければ議決権の異なる種類株式を発行できないような東証のルールも存在します。しかし、会社法は関係者の民事上の権利調整ルールであることが第一なので、関係者の利益調整が可能であるならば、これから法的なルール作りを行うことは困難ではないと考えます。市場との対話を重視し、種類株式の活用に関心を持つ上場会社の経営者が増えてくれば、企業統治との関係でも長期保有株主の優遇措置の適法性といったテーマが検討されるようになるかもしれませんね。【了】

 山口利昭(やまぐちとしあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。

■関連記事

※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。

関連記事