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【コラム 山口利昭】少数株主を蚊帳の外に置いた議論で、紛争の嵐が吹き荒れる?
【10月26日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
■株主との対話促進とは・・
日本再興戦略改訂2014を受けたコーポレートガバナンス改革が進んでいます。金融庁有識者会議ではコーポレートガバナンスコードの策定のための審議が進み、また経産省では伊藤レポートを受けた「持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進研究会」が立ち上げられ、すでに研究会がスタートしています。
「私も退院したら一度資料などに目を通してみよう」と考えていましたので、さっそく最近の委員会や研究会の議事録、資料などを拝見いたしました。しかしビックリ!といいますが、たいへん驚いたのは「株主との対話促進」の一環として株主総会プロセスの在り方や企業情報開示の検討がなされていることです。
これは本当にビックリしました。
私の理解では、株主総会プロセスの在り方や開示・監査の問題は、株主との対話の前提であり、(機関投資家の方々の活躍が期待される)対話促進をどうすべきか、という点とは別の議論だと認識していたからです。
実際にも、昨年出版された「株主と対話する企業」(三菱UFJ信託銀行証券代行部 日本シェアホールダーサービス編著 商事法務 2013年)を読みますと、実質株主の議決権行使に関する論点は掲示されているものの、そのほとんどはIR・SRに関する話が中心であり、ましてや基準日問題、招集通知、総会開催日など株主総会プロセスの在り方、開示制度などに関する記述はほとんどありません。
■少数株主の存在はどこに?
株主総会プロセスの在り方、開示・監査に関わる検討ということであれば、これは会社法や金商法に深く関わる論点なので、機関投資家と会社との関係だけでなく、むしろ一般株主、個人株主といった少数株主保護の要請についても検討課題になるはずです。しかし、上記の金融庁や経産省の委員会等での議論は、はたして少数株主の利益を代弁する立場のメンバーや委員の方は入っておられるのでしょうか?
もし入っておられないとすれば、これは(少数株主保護の視点をあえて意識しておかねば)かなりマズイのではないかと思います。なぜなら、これからの企業の紛争リスク、レピュテーションリスクを左右するのは少数株主の活発な活動に依拠するものと思われるからです。
10月中旬に発売されました拙著「ビジネス法務の部屋からみた会社法改正のグレーゾーン」でも少し書いていますが、平成17年改正会社法によって大規模会社も積極的に会社法を活用するようになりました。その結果、大会社の紛争事案も増え、ガバナンスの在り方に影響を与える参考判例も増えています。
価格決定申立事件等の商事非訟事件、株主代表訴訟等の商事訴訟事件とも、個別案件を処理するだけのルール定立にすぎないかもしれませんが、原告勝訴・敗訴にかかわらず、実務に影響を与え、このたびの平成26年改正会社法にも影響を及ぼしています。
■司法紛争に巻き込まれる会社が増える
私は「機関投資家を中心とした株主との対話+取締役会改革」という図式のガバナンス改革であれば、それほど少数株主保護の必要性は高まらないと思っていたのですが、「株主との対話」の中に株主総会改革や開示・監査という、対話の前提となるルールに関する改革まで含まれるとすれば、これは、一つ間違えると少数株主の利益がないがしろにされてしまう可能性が高まるため、司法紛争に巻き込まれる会社が増えるのではないかと推測します。
SNS等、ネットコミュニケーションの発展により、個人株主が情報を共有する体制は整いつつあります(たとえば山口三尊氏のブログでは、すでにシャルレ株主代表訴訟判決の要旨が詳細に紹介されています)。
先日のシャルレ株主代表訴訟事件、住友電工株主代表訴訟事件等でおわかりのとおり、少数株主による文書提出命令申立により、企業役員の社内メールの内容等を原告株主が容易に知るところとなり(もちろんフォレンジックの進展によって削除メールも復元されることになり)、お金の問題よりも、ガバナンスの問題に焦点を当てて、
「負けてもいいから、ナットクのいく判決、決定を」
といったスタイルで訴訟を争う少数株主、また支援する方々が増えています。
このような社会環境において、少数株主への配慮をせずにガバナンスルールを定立することは、企業にとってリスクはかなり大きいのではないでしょうか。
■少数意見に光が当たることの大切さ
本日(10月22日)の日経経営者ブログにて、丹羽宇一郎氏が「沈黙のらせん」について述べておられます。「沈黙のらせんとは、少数意見が多数意見に押されて意見を言いにくくなり、そのためさらに少数意見が軽視されていくという、世論形成の悪循環のこと。結果として、多数派の意見が実際よりも多くの人に支持されているように見えてしまう」とのことで、少数意見に光が当たることの大切さが示されています。
株式会社の株主にも言えることであり、少数株主の利益保護にも配慮したガバナンス改革によって、たとえ少数株主から提訴されても裁判所で「門前払い」されるようなルールを考えるべきか、少数株主への配慮は後回しにして、その代わり、取締役の善管注意義務違反が争われる事件を何年も抱えることも厭わないと腹をくくるべきなのか、そのあたりの判断は避けて通れないのではないかと思います。【了】
山口利昭(やまぐちとしあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。
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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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