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政治家に訊く:羽生田俊自民党参議院議員(2)「日本の医療分野では、なぜノーベル賞を受賞する研究が出にくいのか」
【10月16日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
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先週、ノーベル物理学賞に赤崎勇名城大学教授、天野浩名古屋大学大学院教授、中村修二カリフォルニア大学教授が選ばれたことで日本中が沸いた。近年、化学賞や物理学賞を受賞するケースは目立つが、医学生理学賞では2名と圧倒的に少ない。研究費の問題点などを含めて、SFNでは、羽生田俊自民党参議院議員に話を聞いた。
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■医学部新設では国際化ははかれない
横田 今年のノーベル物理学賞を日本人3名が受賞したことは大変に喜ばしいことです。一方、医学生理学賞での受賞者が少ないことが気になります。
羽生田 日本人3人が受賞したことは、大変おめでたいことです。嬉しい限りです。17歳の少女がノーベル平和賞を受賞したことも平和に向けての大きな出来事です。
今、特区で医療の国際化を図るために「医学部を新設しよう」という動きが出ています。
東北に医学部を新設するのはまだわかります。大震災で人材が失われ、医師不足に拍車がかかり、復興の旗印的な医学部を作りたいということですから。
しかし、その他の現在特区としてあがっている話は単に大学をつくって儲けたいとしか思えない。そもそも、今の医学部は、どこも国際的で、海外の大学と連携しています。医師の交流や交換留学も活発です。
むしろ医療の国際化の問題は、日本と外国との「研究費の差」にあると思います。留学経験のある医師は、
「研究費が一桁も二桁も違う」
と、口を揃えて言います。
研究費が多ければ、「動物実験」ひとつとっても違いが出ます。私が大学にいた時は、自分でうさぎの世話や、子猫のミルクの世話まで自分で行ってきました。アメリカでは、動物実験担当の人がいて、
「こういう実験に使う病気のうさぎが欲しい」
と言えば、すぐに実験動物が手元にくる仕組みになっています。
日本でなかなか新しい研究が出てこない理由の一つです。研究熱心な医師ほど外国に残り、研究に成功したら外国で特許をとるという悪循環に陥っています。
日本では、特許を取って製品を作るための支援金もない。医療の国際化を図るなら、それこそ支援が必要です。それなのに、大学の研究費は年々減る一方。日本で研究したければ、附属病院などで稼がなくてはいけない。その結果、臨床に重点が置かれ研究にかける時間も余力も少なくなり、毎日の臨床に疲弊しています。
あくまでも大学は医学教育、研究、研修の場であることが一番大切なことと考えています。大学は文科省の所管なのですから、それこそ、文科省の研究費を有効利用できれば、世界に通用するような、それこそノーベル賞を受賞するような研究も日本から出てくるはずです。
■医療は輸入超過
横田 医療機器の開発や新薬の研究なども日本はだいぶ遅れていると聞きます。申請の認可自体は速まっているそうですが、申請するまでに時間がかかるとか。
羽生田 申請するまでにかかるのは、時間だけでなく、お金もそうです。それなのに全く補助が出ないから新薬の研究が進まないのです。申請から認可までの時間は短縮していますが、延長しているのは申請までの時間です。
医療に関しては、日本は今、「輸入超過」になっている。米国から高い薬や多くの医療機器を購入しています。
ペースメーカーをもし日本でつくれば、外国製品よりも余程いいものが出来るのではと思うのですが、厚労省の腰が完全に引けてしまっていて、補助金をつけて、産学協同で研究するという意識がない。背景には、薬害の問題などであまりに責められすぎたということがあるのでしょうが、
「国が許可すれば、何かあった時に責任をとらなくてはならない」
ということで、新薬の研究に関しては、研究のネックとなっているのが、治験の問題です。
日本では、個人の権利がしっかりしていて、かつ国民皆保険で医療は保障されているので、逆に治験が出来にくい状況にあるのです。
昔は、それぞれの大学に「学用患者」と呼ばれる人たちがいて、治験をお願いすることが出来ました。これは、極論かもしれませんが、私は、大学の附属病院は患者を受ける時に、
「日本の医療の進歩のために治験をさせてほしい。指導医もつけますし、安全性も確認できているものですが、最終確認として治験をやらせていただけないか。また医療職者の学生の実習もさせて頂きたい。その代わり、医療費はいっさいいただかない」
ということを患者さんに頼んでもよいのではと考えています。
それぐらい頑張らなければ、日本の医療は、それこそ政府の謳う「国際化」に遅れをとってしまうでしょう。(聞き手・SFN編集長 横田由美子)【了】
羽生田俊/はにゅうだ・たかし
1948年、群馬県前橋市生まれ。東京医科大学医学部卒業後、群馬大学医学部附属病院眼科学教室入局。医学博士。78年、羽生田眼科医院院長に就任。群馬県医師会理事、日本医師会常任理事、日本医師会副会長などを経て、2013年、参議院議員選挙全国比例区において初当選。現在、参議院厚生労働委員会理事。趣味は音楽(ハワイアン、マンドリン)、自動車(ラリー競技)など多彩。好きな言葉は「全力投球」。共著に「心の病:治療と呼ぼうの現在」がある。
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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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